詩の定期便 21

イメージ
By 編集部 / 2022.06.06

 

私は夢見て…

 

私は古い家

 

建物なので
あなたのところへゆくことはかなわない

ただ思いをこめて念じるだけだ
私の隣には古い寺があり
今時はツツジの香りが立ち込めている
掃き清められた庭は
どこから見ても美しい
ツツジの香りの良さを
あなたに届けたい
そう願って私は念じる
あなたがやってくるように
ところで
私には
一人の男が住んでいる
私を手入れし磨き上げているうちに
若い一人の娘が
やってくるようになり
すぐに男と結ばれた
娘は海からやって来たのだ
娘は私に触れてうっとりとさまよい
冷たい木の表面で熱を冷ましながら
眠った
私の木肌はツヤを増し月光と愛を交わした
寒い朝には
男と娘は
寝床の中でいつまでも夢見ていた
私も夢を見た

私も
私を包む者たちも
静かに聞き耳を立てていた
男と娘は
無口になって
思いを巡らせた
その行く手に
私は佇み手招きをした
男と娘は
私の中にいた
娘が海へ
帰っているとき以外は
私の中にいた

 

 

白い肌

 

トンチンカンなことばかり
当の本人大真面目
いつもあたふたしてるけど
ある蓋どれも開けたまま
恋もするけど嫌われて
いることさえも気がつかず

 

トボトボ帰る狭い道
シャワーの匂い色っぽい
傘のある日は雨降らず
貸したものみな返らない
陰口悪口おだてられ
いい気になって落ち込む日

 

お金を払い店を出て
割り勘のはず切り出せず
綿のある場所スカスカで
上でベッドの軋む音
煙がいつも寄ってくる
閉めても閉めても開けられて

 

ある蓋どれも閉まらない
温め足らず食べられず
賞味期限は五年前
仏の顔も霞む目で
見るもの君の白い肌

 

 

 

百日紅(さるすべり)

 

今夜はお化けが出ます
間違いありません
妖怪ともいいます
幽霊の仲間です~あまり仲良くないけど

 

知らないうちに現れるのが通例
よく知っている誰かと話をしていると
その人がいつの間にかお化けだったりするのです
そんな感じ

 

だから注意しないと
結構長い時間、お化けと話してしまったということに
なるのです

 

お化けはいい奴でも悪い奴でもありません
相手の心のありように染まりやすい
だから自然に馴染むのかもしれません

 

私はお化けのカノジョと付き合っています
最初はお化けだと気がつきませんでした
あるとき〜ある合コンで
何人かで話をしているとその中に混じっていました
その夜
カノジョを送って行くことになったのですが
やっと辿り着くとそこは私の部屋でした
その時はそれが自然におもえたのです
そのことが変だとどこかに引っかかっていたのですが
その謎が溶けたのは
三日前の三日月の夜でした

 

カノジョが三日月を見ている姿が
お化けだったのです
それできょうも
街にお化けが出るという情報を聞いたのです

 

お化けと付き合うと
色んなことがどうでもよくなります
私はどうでもいいというのが魅力で
カノジョと付き合っています

 

私の周りから
友だちがドンドン消えて行きます

 

いつか
私もお化けになって
未知の感覚を手に入れたい
日常のしがらみからとき放たれたとき
無類の喜びが手に入ると思うのです
それで幸せになれると思うのです

 

きょう
カノジョは百日紅の木になっています
すべやかな肌に
私は頬を擦りつけるのです

 

 

 

《 この連載について 》
「詩は生むものではなく 自分を分割する行為なのかもしれません」15歳で詩集『童女M』を刊行し、詩人として表現活動を続ける、みちる(松崎義行)さんによる詩の連載です。2週間にいちど、ここに詩をとどけます。

 

《 記事一覧 》

 

《 みちる(松崎義行)さん プロフィール 》
詩、作詞、詩の選評、本の編集。詩のデザインレーベルoblaat(オブラート)札幌ポエムファクトリー指導 ポエムピース株式会社・株式会社みらいパブリッシングの社長。1964年東京吉祥寺生まれ。15歳の時に第一詩集「童女 M-16の詩」を出版社を設立して刊行。詩の投稿雑誌「TILL」「未来創作」を創刊。またエフエム福岡、ラジオ日本、雑誌「ダ・ヴィンチ」などで詩、歌詞の選者。詩集に「NONE」「SEVEN STEPS」「バスに乗ったら遠まわり」「100万円あげる」、「10秒の詩-心の傷を治す本」「幸せは搾取されない」、ビジネスエッセイ「詩人少年、社長になる」「夢を100万回かなえる方法」(日本・韓国)。「oblaat(オブラート)」、「福島の花を広めるプロジェクト」に参加。「ここは花の島」、同名の合唱曲(谷川賢作さん作曲)、トリ音ミニアルバム「自分らしさを咲かせて」、オタクノマドとして絵本のテーマソングシリーズ「ピカ・プカ・ポン」作詞。
 
 
 
 
 
 

 

本について