詩の定期便 13

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By 編集部 / 2021.12.26

この連載について

「詩は生むものではなく 自分を分割する行為なのかもしれません」

15歳で詩集『童女M』を刊行し、詩人として表現活動を続ける、みちる(松崎義行)さんによる詩の連載です。

2週間にいちど、ここに詩をとどけます。

 

 

 

 

 

ノック

 

ノックする場所が間違っているのではないですか
 
 
あなたは毎日
靴のかかとで
ノックしてきました
 
 
舗装された道や
家の近くの狭い道
校庭に敷き詰められた砂利の上
電車の床
石段やエスカレーターの鉄の階段
 
 
そのほかにもありとあらゆる場所をかかとでノックしてきましたが
間違っていたのではないですか?
 
 
そのノックの音に誰も返事をしなかったのですから
あなたはこの先もノックを続けますか?
いつまでも飽きることなく続けるのでしょうか
 
 
ノックする場所を変えてみたらいかがですか?
 
 
そういうわたしも
長年続けてきて思い通りいかないことがあります
 
 
自分ではなかなか冷静に対応策をかんがえられないものです
いつ反応があるかわからないものに対しては
 
 
おっと
誰かが来たようです
ノックの音がしました
では また

 

 

 

 

 

古い友だちが訪ねてきそうな日

 

古い友だちが訪ねてきそうな日
二度と帰らない旅支度をしている
古いカバンに 持っていきたいものを出したり入れたりして
 
 
どんよりと曇った空の隙間から
濃い青色の空が覗いている
あの辺りから
虹がかかるだろうか
 
 
今日は特別な日らしい
何処かに置き忘れ
置き忘れたことさえ忘れていた日記帳が
突如あっけらかんと出現して
続きを書けと促してくる
続きなんて書ける筈ないのに
 
 
あしたになれば
この世界に私の痕跡はないだろう
その逆に
私の胸には深い傷が刻まれているだろう
小さい頃に見た柘榴の裂け目の鮮やかさに似た
 
 
そしてその傷の痛みのために
私のカラダは軽くなっていくだろう
友だちはそのことを察してやってくるのだろうか
 
 
古い友だち
どこからやってくるのだろう
今頃
近くの駅に着いただろうか
 
 
木の机の上で腕組みして
きょうは色々なことを考えている
不思議といつものような堂々巡りはせずに
一方通行で進んでいく思考
 
 
私には
色々なことが分からない
花火を見ている気分になってしまう
色々なことは何を意味しているのだろう
 
 
問いがいっぱいの頭の中に
もういいよ という声が通り過ぎる
そのせいで
私は深く考えるのをやめる
 
 
静かな町に
太陽が巡っていく
風は遠近法の中で通り過ぎ
思いは井戸水のように
汲み上げれば美しく輝き
 
 
私が外へと踏み出し歩き始めるとき
私は静止し
私以外のものが
動き始める
私が存在しなかったときと同じように

 

 

 

 

 

眼差しを留めるもの

 

誰も自分のことなど解ってくれない
そんな眼差しが
道端の枯葉を見つめていた
 
 
枯葉は思った
木に茂っていたころ
同じ瞳がわたしを見上げていた と
 
 
雨が降り
風が吹いて
星が綺麗な夜に
枯葉は木から落ちた
 
 
枯葉が居なくなったところに
小さな空ができた
 
 
その空は
孤独な眼差しに満たされるのを
待って木に引っかかっている

 

 

 

 

 

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webkikaku@miraipub.jp

 

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《 みちる(松崎義行)さん プロフィール 》

詩、作詞、詩の選評、本の編集。
詩のデザインレーベル  oblaat(オブラート)
札幌ポエムファクトリー指導
詩のある出版社・ポエムピース株式会社
本で未来を作る? 株式会社みらいパブリッシング
2 つの出版社の 社長

1964年東京吉祥寺生まれ。15歳の時に第一詩集「童女 M-16の詩」を出版社を設立して刊行。詩の投稿雑誌「TILL」「未来創作」を創刊。またエフエム福岡、ラジオ日本、雑誌「ダ・ヴィンチ」などで詩、歌詞の選者。詩集に「NONE」「SEVEN STEPS」「バスに乗ったら遠まわり」「100万円あげる」、「10秒の詩-心の傷を治す本」「幸せは搾取されない」、ビジネスエッセイ「詩人少年、社長になる」「夢を100万回かなえる方法」(日本・韓国)。「oblaat(オブラート)」、「福島の花を広めるプロジェクト」に参加。「ここは花の島」、同名の合唱曲(谷川賢作さん作曲)、トリ音ミニアルバム「自分らしさを咲かせて」、オタクノマドとして絵本のテーマソングシリーズ「ピカ・プカ・ポン」作詞。

 

本について