詩の定期便 16

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By 編集部 / 2022.02.06
この連載について
 
「詩は生むものではなく 自分を分割する行為なのかもしれません」15歳で詩集『童女M』を刊行し、詩人として表現活動を続ける、みちる(松崎義行)さんによる詩の連載です。2週間にいちど、ここに詩をとどけます。

 

 

 

2010年2月4日に来た手紙

 

封を開ける前から手紙がサヨナラを言っている
寒い夕に届いた薄い桜色の封筒は
あなたからとびたったひとひらの花びらなのか
 
夜の暗いトンネルを抜け
寒い人ごみの雑踏を抜け
ポストにやってきた
ため息のようにポトンという音を響かせて
 
封筒は季節を映して色を変えてきた
まるで映画の予告編みたいに
これからのふたりの未来を見せようとしていたのか
 
最後の手紙はいつもと同じブルーブラックの宛名
よく似合う花の切手にあなたの地名
なんど行ったことだろう
何度行くことだろうと思いながら
 

 

 

ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで

 

開いていたものを閉じるとき
そのなかにモノを収める
そのことを「しまう」というのかもしれない
 
閉じていたものを開き
その中からモノを取り出すとき
そのことはなんというのだろう
 
きみはそんなことにはお構いなしに
入れたがってばかりいるのではないのか
 
回転しているものの上で
行ったり来たりしながら
きみとぼくはふたりで思案に暮れる
 
周りにはそうした人がいっぱいだ
その人達はテーブルの影で
当然のようにお互いを握り合っている
 
きみは
ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで
他のことに興味がない
 
ぼくはきみがしまうものを探すのに熱中するばかりだ
 
 

 

 

亀と猿

 

ハラハラドキドキ
カミツキガメが逃げ出した
いきなり噛みますので
ご注意ください
 
寝ている間に
噛まれた人もいます
友達を噛まれた人もいます
 
カミツキガメは
神出鬼没で
修学旅行の学生のカバンの中にも
入っていたことがあります
 
OLのかすみさんは
フライパンだと思って
火にかけて気づきました
 
落ちこぼれ小学生の雷太くんは
おもちゃ箱の中のブレードを取り出そうとして
亀に噛まれました
 
サラリーマンの小千谷さんは
帰り道で小便をしようとして
噛まれたそうです
 
カミツキガメの噂がもちきりとなった街に
それに嫉妬したカミツキザルが現れました
すっとんでやってきて
腕やおしりに噛み付きます
 
すっぽんにも噛み付きます
釜にも噛み付きます
 
だけれど
カミツキザルとカミツキガメは
お互いを噛まないのだそうです
 
明け方近くに
今日も眠りにつこうとすると
どこからか
噛み付く気配を感じました
 
しかし眠さに勝てず
すーっと眠りの中に落ちてゆきました
 
すると
一緒に眠りの世界に
落ちてゆく亀と猿を目にしたのです

 

 

 

 

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《 みちる(松崎義行)さん プロフィール 》
詩、作詞、詩の選評、本の編集。詩のデザインレーベルoblaat(オブラート)札幌ポエムファクトリー指導 ポエムピース株式会社・株式会社みらいパブリッシングの社長。1964年東京吉祥寺生まれ。15歳の時に第一詩集「童女 M-16の詩」を出版社を設立して刊行。詩の投稿雑誌「TILL」「未来創作」を創刊。またエフエム福岡、ラジオ日本、雑誌「ダ・ヴィンチ」などで詩、歌詞の選者。詩集に「NONE」「SEVEN STEPS」「バスに乗ったら遠まわり」「100万円あげる」、「10秒の詩-心の傷を治す本」「幸せは搾取されない」、ビジネスエッセイ「詩人少年、社長になる」「夢を100万回かなえる方法」(日本・韓国)。「oblaat(オブラート)」、「福島の花を広めるプロジェクト」に参加。「ここは花の島」、同名の合唱曲(谷川賢作さん作曲)、トリ音ミニアルバム「自分らしさを咲かせて」、オタクノマドとして絵本のテーマソングシリーズ「ピカ・プカ・ポン」作詞。
 
 
 
 
 
 

 

本について