詩の定期便 10

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By 笠原名々子・nanako / 2021.11.14

この連載について

「詩は生むものではなく 自分を分割する行為なのかもしれません」

15歳で詩集『童女M』を刊行し、詩人として表現活動を続ける、みちる(松崎義行)さんによる詩の連載です。

2週間にいちど、ここに詩をとどけます。

 

 

 

 

 

 

 

 

あやまらない
 
 

あやまると自分が消えてしまいそうになるので
彼女はあやまらない
あやまる必要がある時ほど
唇を真一文字に結んで
身をすぼめて待っている
あやまりたい気持ちが消えるまでいつまでも
固唾を飲んで
じっとしている

彼女の不用意な発言が
友だちを傷つけてしまっても
大事な約束を破ってしまっても
彼女はあやまらなかった

いつも
彼女の中に後悔とあやまりたい気持ちが押し寄せたけれど
彼女はあやまらなかった

あやまりたい気持ちが
彼女の中にあるとき
彼女は言い知れぬ自信が訪れていることに
気づくことがある
いつかあやまることができるようになるのを
待ち望んでいる自分に
自信をもつのだ

だから彼女は
あやまりたい気持ちから
逃げない
逃げないでじっとしている
彼女の中をなにかが行き過ぎる

いつか-
それも捕まえてみたいと
彼女は思っているのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

ずれゆく質問
 
 

その写真に何が写っていますか

陽の光が差し込む大きな窓
花のない水玉模様の花瓶
大きな古い木のテーブル 
刺繍の入ったナプキンに包まれたカトラリー
開けっ放しの扉の向こうの書斎机
壁に掛けられた何枚もの額
その中には鮮やかな色の抽象画やパステルで描かれた風景

 

その写真を見てどう思いますか

私が撮った写真
その時には見えなかった
やわらかく静かにそこにある時間
寒い季節のあたたかい陽だまり
誰もいない部屋のぬくもり
凛とした空気
自分と無関係の場所
でも懐かしく魅きつけられる

 

その写真を見てどうしたいですか

すさんだ自分の生活
すさみ切れない自分の生活
ものに溢れ雑多なものに埋もれて過ぎていく
遠くを見つめて進もうとする
足元の草花を踏みつけるような日々
キラリと光るプライドをポケットに忍ばせ
たまに握り締めている

どうしたいのか

 

その写真 いただけますか

ノルウエーの北の小さな町
青い港に泊まる赤い船
冬になると太陽が地を履い
ついには登ってこなくなる
静かな燃える眼をした町の人々
オーロラを見に来た人と同じ酒場で話をする
子供たちのことや仕事のこと バカンスのこと
それらのことは写っていない

 

いい写真ですね

ずっとカメラを手にしてきた
ビデオカメラで仕事もした
高いところに登ったり
狭いところにも入って撮影した
いい写真が撮れる自信がない
いいと思ってもよくある写真にしかならない
よくあるような写真を目指していたのでそれでいいのだが
いい写真がなかなか撮れない
いい写真と言われるとホッとする

 

これからどんな写真を撮りたいですか

観たことのない風景
想像では見ることができない
インターネットでも見られない
自分がその中に入らないと見られないもの
見ているその時に気づけないもの
たとえば君と会話するときに
変わっていく風景 というのがあると思う
その時シャッターを押して写ったもの
その時 心は捕まえなかったのに
写真だけが捕まえたもの

 

 

 

 

 

 

 

 

みちるさんへのメッセージや詩の感想はこちらまでお送りください。
webkikaku@miraipub.jp

 

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《 みちる(松崎義行)さん プロフィール 》

詩、作詞、詩の選評、本の編集。
詩のデザインレーベル  oblaat(オブラート)
札幌ポエムファクトリー指導
詩のある出版社・ポエムピース株式会社
本で未来を作る? 株式会社みらいパブリッシング
2 つの出版社の 社長

1964年東京吉祥寺生まれ。15歳の時に第一詩集「童女 M-16の詩」を出版社を設立して刊行。詩の投稿雑誌「TILL」「未来創作」を創刊。またエフエム福岡、ラジオ日本、雑誌「ダ・ヴィンチ」などで詩、歌詞の選者。詩集に「NONE」「SEVEN STEPS」「バスに乗ったら遠まわり」「100万円あげる」、「10秒の詩-心の傷を治す本」「幸せは搾取されない」、ビジネスエッセイ「詩人少年、社長になる」「夢を100万回かなえる方法」(日本・韓国)。「oblaat(オブラート)」、「福島の花を広めるプロジェクト」に参加。「ここは花の島」、同名の合唱曲(谷川賢作さん作曲)、トリ音ミニアルバム「自分らしさを咲かせて」、オタクノマドとして絵本のテーマソングシリーズ「ピカ・プカ・ポン」作詞。

 

《 関連書籍 》

詩人と母
著者 田原・松崎義行
命を見つめる、日中両国の詩人による詩&エッセイの感動競作!!

 

 

 

 

10秒の詩  ─ 心の傷を治す本 ─
詩:みちる 絵:上村奈央
ロングセラー増刷出来。短い言葉が心の奥まで浸透して、傷を治します。

 

 

 

幸せは搾取されない
著者 松崎義行
詩の時間シリーズ。読みやすくて、深い詩の世界を旅してみませんか