詩の定期便 25

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By 編集部 / 2022.10.16
愛しているといえなくなった日

 

愛しているといえなくなった日に
曇り空を見ている

道を歩くと
自分の靴音が控えめな音を立てて鳴っていることに
心地よさを感じる

これは
さびしい
悲しみのリズムを刻んでいるのだろうか

小さな鳥は
私が見ていることに気づくと
首をかしげて何かを考えているようだったが
すぐに飛びたって
見えなくなってしまった

すべてのことがなかったかように感じるのは
感傷的な心のせいだろうか

私が歩いていくと
木々や芝生の庭が
前方からやってきて
後方へと去っていく

見上げられた
木は
角度の変化に合わせて
葉っぱが膨大な情報量の映像を浴びせかけてくる
しかしそれは
ひとときのことだ

銅像の向こうを回り
その古い建物の入り口から中に入り
学生たちの間をすり抜けて
教室に入ると
さまざまな国からやってきた
おそらくはさまざまな事情を抱えた人々が
かたことの言葉や
流暢な母国語でしゃべっている

私は
日本で生まれ日本で育った
マツザキヨシユキという名前の人間だが
いまは
ソンチーイーシンだ

ソンチーイーシン
あなたは誰ですか
あなたはなにを
したいのですか

 

 

資格試験

 

資格試験に落ちた記憶はないのだが
受かった記憶もないから
やはり資格は持っていなかったのだろう

あなたから
「あなたには資格がない」と言われて
作り笑いしかできずに
課題を家に持ち帰ったけれど
あなたが家庭教師をしてくれない限りは
問題は解けそうもない

あたふたと困り果てて
いつものように疲れて眠ってしまった

しっかりした人なら
眠さに負けることもないのだろうが

あなたは
私を見通して
とっくに決めていたのだろう

この人は
私のパートナーになる資格はない

 

 

取締役

 

取り締まります
あなたを
きつく
やさしく
締め付けます
きのう
あなたは
よくないことをした
私が見ていないとおもっていたの?
私はこっそり見ていました
私は網を張って調べていました
それが私の役目だからそして
すべてを報告書に書きます
自分に都合のいいように
あなたの運命の一部は
私次第
あなたは知っているでしょう
私の愛の姿を取り締まる者と
取り締まられる者
表裏一体となって
これからも
どうぞよろしく
業績は
あなたしだい
来年度の計画も
中・長期目標も
私が認めれば思いのまま
あなたと私の将来は安泰
市場に適応さえすれば
市場に溺れても

 

 

《 この連載について 》
「詩は生むものではなく 自分を分割する行為なのかもしれません」15歳で詩集『童女M』を刊行し、詩人として表現活動を続ける、みちる(松崎義行)さんによる詩の連載です。2週間にいちど、ここに詩をとどけます。

 

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《 みちる(松崎義行)さん プロフィール 》
詩、作詞、詩の選評、本の編集。詩のデザインレーベルoblaat(オブラート)札幌ポエムファクトリー指導 ポエムピース株式会社・株式会社みらいパブリッシングの社長。1964年東京吉祥寺生まれ。15歳の時に第一詩集「童女 M-16の詩」を出版社を設立して刊行。詩の投稿雑誌「TILL」「未来創作」を創刊。またエフエム福岡、ラジオ日本、雑誌「ダ・ヴィンチ」などで詩、歌詞の選者。詩集に「NONE」「SEVEN STEPS」「バスに乗ったら遠まわり」「100万円あげる」、「10秒の詩-心の傷を治す本」「幸せは搾取されない」、ビジネスエッセイ「詩人少年、社長になる」「夢を100万回かなえる方法」(日本・韓国)。「oblaat(オブラート)」、「福島の花を広めるプロジェクト」に参加。「ここは花の島」、同名の合唱曲(谷川賢作さん作曲)、トリ音ミニアルバム「自分らしさを咲かせて」、オタクノマドとして絵本のテーマソングシリーズ「ピカ・プカ・ポン」作詞。
 
 
 
 
 
 

 

本について