この記事について
小説家のカワカミ・ヨウコさんが、医学博士の木ノ本景子先生を訪ね、対話しました。
「自粛警察」という日本独自の風潮や、コロナで性格が変わってしまった知人たちについて。
ワイドショーではなかなか聞けない、深く切り込んだトークをお楽しみください。
みらいパブリッシングより出版された『クスリに頼らない免疫学向上計画』。
著者の木ノ本景子さんは神経内科専門医でいらっしゃいます。
この度、私、カワカミ・ヨウコは、念願だった木ノ本先生との対談を実現しました。
神奈川県鎌倉市で自由診療のクリニックを開いている木ノ本先生。
海の見える美しい街の中にある「ヘテロクリニック」を訪ね、約2時間にわたってたっぷりお話させて頂きました。
プロフィール
木ノ本景子(医学博士 ヘテロクリニック院長)
神経内科専門医。内科認定医。認定産業医。医学博士。平成5年、福井医科大学(現、福井大学)医学部卒業。神経内科医として16年間、大学病院、急性期病院、回復期病棟で脳梗塞や神経難病などの診療に従事。2018年5月、鎌倉に自由診療の「ヘテロクリニック」を開設。免疫力向上、癌撲滅、認知症予防といった独自の外来を確立している。ヘテロクリニック https://hetero-clinic.com/
カワカミ・ヨウコ(小説家)
東京女子大学、ニューヨーク州立大学、サンフランシスコ州立大学でジェンダー学を学ぶ。修士号。911をアメリカで経験する。様々な人種や民族や宗派の人々とアメリカで過ごした経験から、それを小説にしたいと思うようになる。昨年コロナ禍がはじまった2020年5月、近未来小説『おもてなし2051』をみらいパブリッシングから刊行。『おもてなし2051』は、多種多様な「人種のるつぼ」になった30年後のニッポンを描いた物語。未来の東京と福島を舞台にしている。ディストピアではなく、希望ある未来を描くことに力を注ぎながら、現在は2冊目の小説を執筆中。Twitter / Instagram
木ノ本先生がみらいパブリッシングから本を出すのは今回で2度目です。
2016年に出版された『脳の取扱説明書』は脳の構造などが詳細かつ分かりやすく書かれている本で、初心者でも脳の世界について探求心をかき立てられる魅力的な本でした。
一方、今回の『クスリに頼らない免疫学向上計画』はコロナ時代に沿った、まさにオンタイムの本です。
最初の本と2冊目の間に5年のブランクがあります。そのあいだにコロナがはじまり時代も変わりました。
けれど私は、この2冊に共通する明確なテーマがあると思いました。
それは、自分の本当の感情に忠実に生きようというメッセージです。
脳の中で、「左脳」は理性や論理、言語を司る部分。一方、「右脳」はイメージや感情などを司っています。
私たちは普段、「左脳」で発せられる思考の声が大きすぎて、わずかな「右脳」の声はかき消され、自分の本当の感情に気づかずに過ごしてしまうことも少なくありません。
自分を抑え過ぎず、枠に囚われずに生きることで、私たちのストレスは減り、そうすることで免疫力も上がるのだと、木ノ本先生は言います。
頑張っている人が身体に不調をきたすのは、かなり限界に近づいているとき
カワカミ:
はじめまして。本日は、お会い出来て嬉しいです。先生の本を2冊とも読ませて頂いて、私はとても励まされたんです。「自分の気持ちに正直になろう」というフレーズを読んで、私はずっとこういう言葉をお医者さんから言ってもらいたかったのだなと思いました。
新刊の『クスリに頼らない免疫力向上計画』では、木ノ本先生がこれまで多くの患者さんを診てこられた結果、90歳まで健康で長生きしている人には「共通の特徴」があることに気づいた、とお書きになっていますね。それは、自分のペースで好きなように生きてきた人だと。自分のペースで生きるということは、自分勝手という意味ではなくて、自分にも周りにも寛容でいる姿勢のことであると。たしかに、そんなふうに生きられたら、ストレスはだいぶ減りますよね。
木ノ本:
ありがとうございます。1冊目の本『脳の取扱説明書』では、「左脳」と「右脳」で考えていることが違うと書かせてもらいました。
今回の新刊では、ストレスが免疫力に与える影響について書いているのですが、それで言えば、やはり自分がすべて自分のことを把握しているかというと、そこは難しいところで、自分のことは意外と分かっていなくて、誰が見てもこの人はストレスがあるだろうと見える人に限って、本人は大丈夫と言ったりするんです。周りから見ておかしくても、本人は気づいていない場合が多いですね。
神経内科専門医の木ノ本景子先生
カワカミ:
先生が新刊で指摘されているように、完璧主義の人や「いい人」になろうと頑張ってしまう人のことですね。責任感が強くて、人から頼みごとをされたら断れない人だったり、自分のことは棚に上げても、みんなの要求を叶えてあげたりする人だったり。そのような頑張り屋さんの人は、周りにたくさんいるなぁと、先生が著書で挙げている例を読みながら頷きました。周りに配慮するあまり自分で自分の心に気づかない。まさに現代人そのものだなと思います。
木ノ本:
そういう頑張っている人が身体に不調をきたした時は、もうかなり限界に来ている時かもしれないので、できれば不調を覚える前に自分のストレスに気づいてほしいですね。日本は協調性を美徳とする社会なので、日本人は特にストレスを抱える傾向が強いと思います。海外だと、自分が言いたいことを言うのはいいことだ、みたいになりますが、日本では周りに合せて空気を読むことが良いことだ、となりますよね。
「自粛警察」には日本人的な気質がとてもよく顕れている
カワカミ:
たとえ先生が著書で「本音で生きよう」と呼びかけても、周りがそれを許さなければ、そのように生きるのは難しいのではないですか? 私たちが自由に生きられるようになるためには、もっと大きな社会的変革が必要なのではないですか?
木ノ本:
たしかに社会的な変革は必要だと思います。私はクリニックに来る患者さんたちに、心の声に目を向けて、抱えているストレスに気づき、もっと自分の気持ちに素直になるようにと声をかけていますが、それだとたしかに規模としては小さいかもしれませんね。
カワカミ:
少なくともコロナ禍の前でしたら、ストレスを減らす世の中を作ろうと、呼びかけることもできたのでしょうが、コロナ禍がはじまってから、残念ながら、先生の本とは正反対の世の中になってしまったなと私は感じているんです。
「自粛警察」という言葉をご存知ですか?
木ノ本:
「自粛警察」ですか。知ってます! あれは酷いですよね!
カワカミ:
私は「自粛警察」には日本人的な気質がとてもよく顕れていると思うんです。私が自粛しているのだから、あなたもしなさいという気持ちから、商店街で営業している店を非難したり、役所に電話をかけたり。「自粛警察」になる人は、どういう心理から来ていると思いますか?
木ノ本:
不安や恐れが強いのではないかと思いますね。自分自身を抑圧し、我慢している部分が大きいから、自由にしている人を見ると許せなくなる。自分が自由な心を持っていたら、他人のことなど気にならないはずですから。
「ヘテロクリニック」の一角。さまざまな専門書が並んでいる
コロナで性格が変わってしまった人たち
カワカミ:
先生はクリニックで「感情カウンセリング」というのもされていますよね。私はコロナ禍になってから、人の感情について考える機会がぐっと増えたんです。私の周りには評論家や物書きなど、いわゆる「左脳」で生きる職業の人が多いのですが、コロナ禍になってから性格まで変わってしまった人が多くいて、「この人こんな人だったっけ?」と思うようなことが増えました。
木ノ本:
具体的には、彼らはどんな風に変わったのですか?
カワカミ:
大きく分けて、二手に分かれました。「コロナはただの風邪だ、騒ぎ過ぎだ」と考えるタイプと、「コロナを絶対に防ごう、誰の命も奪わせない」と考えるタイプです。
両者の主張ともそれぞれ頷けるところはあるのですが、彼らの訴える態度がとにかく強烈で、コロナ禍の日々が進むごとに激しくなっていきます。昔から知っていた人たちだけに、その変貌ぶりに戸惑うことが多かったです。
手指のアルコール消毒さえも必要ないと言う人や、メディアがすべて悪いのだと主張する人も現れて、「この人ずいぶん変わってしまったな」とショックを受けることが多かったです。
木ノ本:
なるほど。基本的に極端な意見の方が世の中では取り上げられやすいんですよ。中立な意見よりも極端な意見のほうがインパクトがあるから、メディアもそれを採用する。
自分も本を書いていながら言うのも変なのですが、極端な本が並ぶ中で、中立な本は目立たない。中立な意見や本がまったく無いとは言いませんが、目立たないんです。どうしても極端なほうに人の目は向かいますからね。
コロナウイルスにはいろいろな種類があり、新型コロナウイルスはその一種です。その他のコロナウイルスが原因で風邪をきたすことも多く、「コロナはただの風邪だ」と主張している人は、そこから考えを取っているのでしょうね。
– 後編に続く –
(取材・文・写真:カワカミ・ヨウコ)
《 本について 》
『クスリに頼らない 免疫力向上計画』
著者 木ノ本景子
ウィズコロナの時代を生き抜くための、最強の味方は免疫力!
『脳の取扱説明書』
著者 木ノ本景子
脳の働きを知り、うまく使いこなして自分の望む人生を手に入れる!
『おもてなし2051』
著者 カワカミ・ヨウコ
近未来SF小説。 舞台は、観光立国として成功をおさめ、第一原発の廃炉作業が進む2051年の日本…