さかさ絵はおふざけの発見? さかさ絵本『まじ さかさじま』の著者・伊藤文人と担当編集・ささきの「おもしろさかさま談義」

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By 佐々木茜子 / 2021.12.13

 

そもそも絵を描く時に、さかさ絵を描こうと思いますか?

 

まず思わないし、描けない…。

 

なぜ普通の絵じゃなくさかさまなの?

 

さかさ絵本をつくり続けている伊藤文人さんに、今作品で3回目の担当になった編集者ささきが、今更ながら「さかさま」についての疑問をゆるゆる聞いてみました。

 

 

 

 

ささき:伊藤さん、今更ですが、何か“さかさま”についてのインタビューさせてください。

 

伊藤:何かってずいぶん唐突ですね。いいですよ。なんでも話します。

 

ささき:実はわたし、伊藤さんの本を担当させてもらって今回で3冊目になるのですが、ぶっちゃけ伊藤さんがどうやってさかさ絵をつくっているか知らないんです。

 

伊藤:担当編集者で、しかも3冊目なのに?

 

ささき:はい。今更ですがどうやってつくってるんですか? あのヘンテコな… アッ、いや、えっと〜 魅力的な絵は!

 

伊藤:なんか無理矢理言ってます?(笑) まあいいや。よし、では、さかさ絵のつくり方のコツを教えましょう!

 

ささき:よろしくお願いします。

 

 

 

 

伊藤:佐々木さん、シミュラクラ現象って知ってますか?

 

ささき:なんですかそれ? 大気とか気圧系の現象でしょうか?

 

伊藤:全然違います。点が3つあると顔に見えるってやつです。

 

ささき:あぁなるほど! そういうのありますよね。それのことを? シミ△◉x*現象!?

 

伊藤:シミュラクラ現象です。もうひとつパレイドリア効果というのがあるのですが、それは聞いたことありますか?

 

ささき:い、伊藤さんが急に東大王に見えてきました…。伊沢みたい!

 

伊藤:端的にいうとその2つを利用してさかさ絵はできるんです。 

 

ささき:早いですね。もうできちゃったんですか。終わり?

 

伊藤:これから詳しく説明します。

パレイドリア効果っていうのは影が幽霊に見えたり、天井のシミが顔に見えたりすることあるでしょう? そのことです。最初はなんとなく何かが顔に見えるとか、そういう簡単なところからのスタートでいいんです。

 

ささき:そうなんですね。いきなりウサギをひっくり返してカメにしたりするのではないんですね。

 

伊藤:それはかなり難易度が高くて難しいです。それに最初から何が何に見えるって決めつけちゃうと面白くないでしょ。こうしようと最初から決めつけてつくるものって結局つまらない絵になるんです。

 

ささき:おぉ〜。かっちょいい〜。

 

 


点が3つで顔に見えちゃうシミュラクラ現象。身の回りにあるか探してみるとおもしろいかも?

 

 

伊藤:よく人に頼まれるのが、牛をうさぎにしてくれとかって言われたりするんですけど、それってつまらないでしょ。何になるのかわからない、偶然の産物が面白いんですよ。

 

ささき:ほほぅ。

 

伊藤:それで続きですが、最初に正面からみると、なんとなく猿に見えて、ひっくり返すと、なんとなく女の子に見えるとするでしょ。それで、猿をもっと猿らしくしようと思って修正すると、今度はひっくり返した時に女の子じゃなくて馬に見えてたりするわけ。

 

ささき:そうか、絵が最初と変わっちゃうんですね。

 

伊藤:そうです。で、どんどん修正していくとどんどん絵が変わってしまう。その繰り返しでさかさ絵ができるんです。このさかさ絵にしようとして描いているわけじゃないんですよ。最終的に何の絵になるかわからないところが、さかさ絵の面白いところなんですよね。

 

 


伊藤さんのさかさ絵。小さな島がたくさんありますね。さかさまにすると…?(さかさ絵本『まじ さかさじま』より)

 

 

ささき:おぉ〜! 伊藤さん、やっぱりノーベル賞とってほしいなあ。

 

伊藤:まぁ基本はおふざけの発見ですけどね。

 

ささき:おふざけの発見! ステキな発見ですね。わたしも発見したいです。

これで伊藤さんがどうやってさかさ絵を作っているのかなんとなくわかりました。ありがとうございます。

だけどもうちょっと仕事しないと記事が書けなそうなので、もう少し質問させてください。

 

伊藤:仕事してください(笑)

 

 

            

 

ささき:伊藤さんは、絵以外にもひっくり返してみることってあるんですか?

 

伊藤:はい、ありますね。

 

ささき:たとえばどんなことでしょう?

 

伊藤:小学校の時の話ですけどね、教室を上下さかさまにして見てましたね。

 

ささき:えっ! どういうことですか?

 

伊藤:教室って机が30も40も並んでるじゃないですか。それで、走り回る時って机の脇を走ってぶつかったりして狭いんですよ。だけど天井を見ると、蛍光灯が2つか3つ、くっついてるだけで他に何もないでしょう。だから逆に部屋が広く感じるんです。

 

ささき:天井ですか…。

 

伊藤:そう。それでその天井を見て、その広い部屋を意識するんです。狭そうな部屋も広く感じることができます。

 

ささき:なんか今度は伊藤さんがMr.マリックに見えてきました。

  

伊藤:それから昔、僕が小さい頃こんなこともありましたね。

僕の親父が泥棒が入ってくることを心配して、どこの窓が危ないかなとか鍵をどうつけようとか悩んでいたんですよ。それで僕は、そんなの簡単じゃないか。泥棒だったらどこから入りたいか考えればいいんだって言って、それで本当に自分が泥棒になるんです。心だけ。

で、そうすると、このうちはココが入りやすいっていうのがあるでしょ。泥棒しちゃうのは良くないけど、反対の気持ちはわかるじゃないですか。そういうことを結構小さい時からやってましたね。

 

 

 

 

ささき:やっぱり昔からさかさまの素質があったのですね。わたしも泥棒になりきってウチの防犯を確かめなくちゃ。

物事を逆から考えるっていうのは、すごく大事なことですよね。わたしも自分から見た方向でしか物事を考えられなくて視野が狭くなってしまいがちなのですが、そんな時は伊藤さんのことを思い出してみます。

 

伊藤:だから僕の作品って、美術とか図工の教科書に使われているんじゃなくて、道徳の教科書に使われてるんですよね。別に意識はしてなかったんだけど、色々な方向から物事を見るっていうことは何かの助けになりますよね。

 

ささき:パチパチパチパチ(拍手) 

さかさまを意識することは伊藤さんにとってごく自然なことだったのですね。これでさかさまの謎が解けた気がします。やっぱり伊藤さんはノーベル賞とって欲しいなあ。

 

伊藤:あれ? そういえば新刊の話はしなくていいんだっけ?

 

ささき:あ、忘れてました。でももう時間がないので、とりあえず新刊の情報は下の方に貼っときます! 伊藤さん今日はありがとうございました。

 

伊藤:はい、こちらこそ。新刊よろしくお願いします(笑)

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

絵だけじゃなくて、教室も、物事もひっくり返しちゃう!

伊藤文人さんの新刊さかさ絵本『まじ さかさじま』はコチラ!

 

 

 

(取材・文:佐々木茜子)

 

 

 

 

伊藤文人さんの本