本当はこわい不動産投資。借金2億の地獄を見たしくじり先生に訊く、スルガ銀行と"不正直不動産"の闇

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By 笠原名々子・nanako / 2022.06.24

 

「みんなやってるよ」

その言葉に乗せられて1年前に10万円で買った仮想通貨が、今見たら3万円に値下がりしていた。

買わなきゃよかった…。というかそもそも、なぜ買ってしまったのだろう。

 

おそらくいちばん最初の動機は、将来への漠然とした不安。

独身だし給料も高くないし、老後2000万問題とか言われてるし。

 

だけど、当時のわたしは貯金にも余裕があった。

それなのに不安になってしまったのはなぜだろう。

ない不安をつくられたということはなかっただろうか。

 

今日もまた「将来に備えて副業♪ スマホで1日5万稼げる」というメッセージがTwitterに届いた。

不安や憧れ。その弱さを上手についてくるビジネスがこの世に溢れている。

一歩踏み込み、自己破産や自死に追い込まれる人もいる。

 

今回、不動産詐欺で2億円の借金を背負い、詐欺を働いたスルガ銀行・不動産会社との死闘の末に騙された946人分の借金をすべて帳消しにした被害者同盟の代表、冨谷皐介さんに話を聞いた。

地獄の底にタッチし、見事地上に生還した奇跡の人物。

そのありえない逆転劇は世間に衝撃を与え、NHK「逆転人生」の最終回ゲストとして登場、新聞各紙の取材などメディアに引っ張りだことなっている。

 

「なかなか、マイナス2億からゼロまで戻ってくるのは至難の技です。だから、這い上がり方を教えるのではなく、そもそもそこまで落ちないように気をつけて、と伝えたいんです。私はそんな”しくじり先生”なんですよ」

 

地獄を見たとは思えないほど軽やかにそう話す冨谷さんに話を聞いたら、冷水を浴びたように目が覚めてしまった。

今日はその体験をみなさんにシェアしたいと思う。

 

 

今日のゲスト:冨谷皐介(とみたに こうすけ)さん

 

2018年より社会問題になったスルガ銀行「かぼちゃの馬車」シェアハウス問題の被害者。自己及び同被害者の完全救済を行う為に自ら被害者団体を設立、被害者団体スルガ・スマートデイズ被害同盟を設立。自ら団体代表を務め、日本の金融事件歴史上初の全面解決を勝ちとり約900名、1000億を超える金融被害の被害者を救済する。自らの被害解決後は同様な被害解決の為、消費者問題の救済支援団体である一般社団法人ReBORNs(リボーン)を設立。多くの被害救済に日夜活躍中。Twitter  / YouTube / Website 

 

聞き手:笠原 名々子(かさはら ななこ)

みらいチャンネル編集長

東京都出身。平成生まれのゆとり世代。大学卒業後、フリーランスライターに。これまで行ったインタビューは200件以上。現在はみらいチャンネル編集長としてコンテンツ企画と記事執筆を担当。好きな音楽はヒップホップ。趣味は夜のランニング。

 

 

 

正直じゃないから成り立つ「正直不動産」というタイトル。
不動産業界の8割は悪人…。

 

ななこ:冨谷さんの本を読んで衝撃を受けました。スルガ銀行という、よく電車の窓から見えるあの銀行が不動産会社と組んで書類の改ざんや不正融資を行なっていたという事実や、借金の苦労で11キロ痩せ、家族を救うために自分が死ぬしかないと考えたこと。わたしも不動産投資に興味があったのですが、今はちょっと躊躇してしまいます。

 

冨谷:みんな多かれ少なかれ将来への不安があると思うのですが、そこにつけ込まれて騙されてしまうんですよね。「そんなに難しくないから」「みんなやってるから」って。

とくに不動産の買い物は、あまりにも日常生活で使う金額と乖離しているので、みんな物件の価値や近隣相場をあまり調べないんです。被害者は、例えば1千万の価値の物件を3千万で買わされたりしているんですよ。

私もそうでした。スルガ銀行から全額融資を受け「かぼちゃの馬車」という名前のシェアハウス1棟を1億9000万円で購入したんです。でも約束されていた家賃収入が一度も入らないまま不動産業者が破綻し借金だけが残りました。

不動産のことが何も分からない人たちを赤子の手を捻るように騙しにかかる。この業界はおかしい。おかしいんです。

 

ななこ:山Pが主演したNHKのドラマ「正直不動産」も話題になりましたよね。

 

冨谷:あのドラマはビッグコミックに掲載中の漫画が原作なのですが、僕が被害に遭ったスルガ銀行の話題も「スルガスキーム」という言葉で出てくるんですよ。

とにかくタイトルが秀逸ですよね。「正直不動産」って、正直な業界じゃないから成り立ってしまうタイトルですからね。

不動産業界で働く人に聞いても、「この業界の8割は悪人ですね。僕も含めてですけどね」って言うんですよ。私は、この業界をなんとか正常にしてみたいと思っています。

 


冨谷さんのYouTubeチャンネル「ガルスTV」は更新頻度が高く内容もかなり切り込んでいて面白い。ガルスを逆から読んでみると…?

 

 

不動産投資に失敗しないコツは、手を出さないこと。
投資をやるならオススメは株だけ。

 

ななこ:8割が悪人…。自分を騙そうとする人を見抜くコツというのはあるのでしょうか?

 

冨谷:悪い人に限って良さそうに見えるので、人を見抜くのは難しいと思います。

もし不動産投資をしたいなら、物件そのものを見るしかない。本当に金額に見合った価値があるのか。でも、素人がそれを見抜くのは無理なんですよ。つまり、買わない方がいいということです。

 

ななこ:すがすがしい結論ですね。他の投資はどうでしょうか? たとえば仮想通貨とか。

 

冨谷:うーん。まだ市場が成熟していないし、情報が行き渡っていなくて調べるにも限度があるし、やめたほうがいいと思います。やるなら株がいいんじゃないですか? 市場が成熟していて、すでに万人に情報が平等に与えられているので。勉強して、自己責任でやってみてもいいと思いますよ。

 

 

「地銀の優等生」と称された銀行の行員に騙された。
こうなれば、誰に何が起きるかわからない。

 

ななこ:(もう遅い…)じゃあ、これからやるとしたら株にしようと思います。「自分だけは大丈夫」と思ってしまうところがあるので、気をつけます。それにしても、どうしてみんな「自分だけは大丈夫」と思ってしまうのでしょうね。

 

冨谷:そうですよね。私も、自分が被害に遭うまでは、詐欺被害の話を聞いても「脇が甘いから騙されたのではないか」と思ってました。でも実際、私はスルガ銀行の行員に騙されたんです。「地銀の優等生」と言われていた銀行の、世間的に信用があるとされている行員に。

事件当時、会社の同僚にはすべてを一切知られないようにしていました。被害に遭ったことをカミングアウトしたのは、事件が解決して会社を退職してからです。退職した後に「実は…」と伝えて、「この本にすべて書かれているので買ってください」と自著を紹介したんです。

本を読んで、みんな初めて分かったんですよ。「冨谷さんみたいな人が?」ってすごく驚かれました。こんな堅実な人間がって。私も未だに、なんで自分がこんな事件にあったのかな、と思うんですよ。私も遭うなら、世の中のすべての人にとって他人事ではないと思いました。

こういう事件があったんだと頭にインプットしておくと、みなさんの自己防衛能力が高まると思うんですよ。体に免疫があれば抵抗できる。だから、多くの人にこの事件のことを知ってもらいたいと思っているんです。

 


詐欺発覚後、LINEで被害者たちを集めミーティングを行ったときの様子

 

 

これは投資の失敗ではなく詐欺。
正義を確信しているから顔出しも怖くない。

 

ななこ:顔と名前を出して発信するのは怖くないですか? 賛同の声に混ざって「自業自得」「投資は自己責任」という批判もときどき見受けられます。

 

冨谷:僕も基本的には、投資は自己責任だと思っています。でも、僕は投資に失敗したのではなく詐欺に遭ったんです。それを強く確信したから戦い抜くことができました。

怖いという気持ちもないですね。被害者同盟の設立当初、「こんな活動してたら殺されますよ」って言われたこともありますが、「殺すんだったら殺せよ」って思ってました。私が解決した金額は、総額約1500億円です。僕が存在しなければ、スルガ銀行はこの金額を精算しなくて済んだんですよね。さすがにこの額が動くと人の命が関わってもおかしくないのかなとも思います。まぁ、問題が解決した今は「やっぱり殺さないでください」と思っていますが(笑)。

もう自分の問題が片付いたのに、まだ顔を晒してバカじゃないの? と思う人もいるでしょうね。でも、僕が発言することで1人でも2人でも被害を減らすことができるなら、それは意味のあることだと思っています。

 

ななこ:冨谷さんは、自分の事件が解決したあと、会社を辞めて一般社団法人を立ち上げ、他の詐欺被害者の方達の救済活動をしているんですよね。

 

冨谷:はい、土日なくずっと動いてるのでフリーランスみたいな感じです。弁護団や被害者の方との作戦会議に、YouTubeの動画撮影…。作戦会議は日付を越えるまで続くこともあります。若手社員だった30代のとき馬車馬のように働いていたのですが、今もそのときのような感じでずーーーっと動いています。今日のように日曜日の朝に家にいるなんて、本当にめずらしいです。

 


YouTubeには様々なゲストが。悪徳商法やカルト集団による被害者救済で知られる​​紀藤正樹弁護士も登場

 

ななこ:自分のことではなくてもそこまで本気でできるものなのですね。

 

冨谷:会社を辞めて退路を断ち、自分を追い込みました。

経緯をお話しすると、自分が被害者だったときに立ち上げた被害者同盟の中に、同じスルガスキームで騙された別の物件(アパート・マンション)の被害者が25名いたんですね。僕が騙されたシェアハウスの問題は解決したのに、そちらのほうは解決しなかったんです。スルガ銀行は「調停で解決しましょう」と言っていて、同じ構造の詐欺だからすぐに解決するだろうと思っていたのですが、結果、こちらの訴えをすべて否認してきて。それから新たな戦いがはじまってしまったんです。

こんな状況で、自分が助かったからもういいや、なんて思えないじゃないですか。だから被害者仲間を救済するための箱として2020年の春に一般社団法人ReBORNsをつくったんです。

 

 

弁護団が大砲なら、砲弾を準備するのが被害者の役目。
勝利の鍵はチームビルディング。

 

ななこ:すばり、勝算はありますか?

 

冨谷:まず、私の事件のとき尽力してくださった優秀な弁護士さんたちが再結集してくれたので、素晴らしい弁護団であるというのは断言できます。

でも、この戦いは弁護団だけじゃ勝てないんですよ。被害者がしっかりしないと勝てない

例えると、弁護士は、狙ったところにしっかり当ててくれる大砲です。でも大砲は砲弾がないと撃てないんですよ。その砲弾を準備するのが被害者である僕らの仕事だと思っています。

 

ななこ:砲弾を準備する。被害者の動きとして、具体的にはどんなことをするんですか?

 

冨谷:まずは、データを集めて分析して弁護士に提供することですね。被害者の中には企業の管理職、システムエンジニア、営業マン、医療従事者など様々な職種の人がいて、弁護士以上にデータ分析に長けている人もいるんです。

あとは、スルガ銀行の株主総会に議案を提出するなど色々な奇策を練って実行したり、デモを行うこと。そんな風に弁護士が撃ちやすい砲弾をこしらえるんです。

 


苦楽を共にしてきた河合弘之弁護士(写真右)ともに会見に臨む冨谷さん

 

ななこ:なるほど。そう考えると、それぞれの専門性やアイデアを生かしてできることがたくさんありますね。

 

冨谷:私が得意なのは、弁護団や被害者団体をまとめること、チームビルディングなんです。それが勝負の鍵を握っていると思っています。

 

ななこ:チームビルディングが得意というのは、大企業で管理職をされていた経験が大きいのでしょうか?

 

冨谷:わかりませんが、もともと得意なのかもしれないですね。学生時代にサークルを立ち上げて代表を務めたりもしましたし。あと、会社にいるとき、若手の登竜門だと上司に言われて労働組合の書記長をやったことがあったんですよ。会社の経営陣に意見を伝えたりするわけですけど、そこで、従業員ひとりひとりの声は小さくても団体の声は無視できないものになるんだというのを知って。数は力だと思うようになったのは、この経験が大きいかもしれません。

 

ななこ:数は力。わたしも取材する前は、本を読んでこういうことがあったんだと知りつつも、何もしていませんでした。こういう見ているだけの人にできることはありますか?

 

冨谷:周りの人と「こんな事件があったんだよ」と会話してもらうだけでも嬉しいです。街頭デモでもよく言うんですよ。「ご通行中のみなさま、こういうデモがあるということを周りに話してください。さらに、よろしければツイートしてください。それがわたしたちの力になります」って。

そうしてもらうことが、被害者を助けることにつながります。巨大組織が相手でも、数の力で勝つことができるんです。ドラゴンボールの元気玉ってあるじゃないですか。あんな感じでみんなの力をちょっとずつ分けてもらって巨大なエネルギーをつくりたいんですよ。「オラに力を!!」って感じですね。

 


事件解決後に行われた祝勝会でのスピーチでは表情がほころんだ

 

 

死を覚悟したとき「ふざけるな」という怒りが湧いてきた。
死ぬ気になればなんでもできる。

 

ななこ:まずは知ること。そして周りと話すこと。

 

冨谷:そうですね。世の中の仕組みを知るのはいいことだと思います。今は不景気もあって、おいしい話に人の心が流れやすくなってしまう構造がありますから。言われたことを鵜呑みにするのではなく、正しいのかそうじゃないのか自分で考えること。テレビばっかり見てたらダメになると思いますよ。

 

ななこ:(最近テレビに出てましたけど…)とにかく、冨谷さんの話を聞いて、もう「自分だけは大丈夫」とは思えなくなりました。もし自分が被害に遭ったとき、どうしたらいいでしょうか。

 

冨谷:僕は2億円の負債を抱えてしまったとき、妻には正直に打ち明けましたが、会社には気づかれないように普通を装って仕事をしていました。それなりに責任ある立場だったのでキツかったですね。過労死寸前だったと思います。

どうしても、周りに相談できなくて1人で悩んで追い込まれて、精神やられて鬱になっちゃう人も多いんですね。私の被害者仲間にも「薬を飲まないと眠れない」と言っている人がいます。

何か困ったことがあったら、家族や周りの信用できる人に相談してほしいです。

それから、自殺は絶対ダメです。僕も死を考えたことがありました。でも、愛する家族が悲しむと思ったんです。あと、ふざけるなって気持ちが湧いてきた。なんで俺が死なないといけないんだって。

怒りに火がついたので戦うことにしたんです。死ぬって決めたから強かったと思います。死ぬ気になればなんでもできる。本当にそう思います。

 

ななこ:説得力があります。冨谷さんのような本当の地獄を見たしくじり先生は、この日本に必要な存在だと思います。

 

冨谷:私は地獄を見ました。ただ、まだ地獄を見続けている人もいるので、それは放っとけないです。頑張りますので、お力添えよろしくお願いします。

 

ななこ:話を聞いて、自分の頭でちゃんと考えることが冨谷さんの応援につながるのだと思いました。仮想通貨もやめようと思います。今日はありがとうございました!

 

 

 

編集後記

束の間の安息日である日曜の朝に話を聞かせてくれた冨谷さん。実は、記事には書けなかったけれど、取材時間の前半はわたしの人生相談を冨谷さんに聞いてもらうという謎の時間になっていました。というのも、冨谷さんは本当に、一度地獄を見たと思えないほど物腰が柔らかく聞き上手で…。チームビルディングが得意と仰っていたのも頷けるというか、やっぱり人望の湧くところにリーダーって出現するんですね。とにかく、お話を聞いて、将来を不安に思うより、将来を不安にさせる言葉を使う人やメディアに近づかないようにしようと思いました。本当に不安なのか、本当に必要なのかは、自分の胸に聞いてみよう。

 

 

《 ななこの部屋について 》

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