最近よく耳にする言葉「マインドフルネス」。
30年前からマインドフルネスを実践してきた第一人者であり、
精神科医・「心のトリセツ研究所」代表の藤井英雄さんに、
マインドフルネスが心にもたらす効用や、新著『危機を乗り越えるマインドフルネス』について話を伺いました。
「ネガティブな感情」そのものではなく、「ネガティブから抜け出せない状態」を克服するのがマインドフルネス
― 著書『危機を乗り越えるマインドフルネス』に、藤井さんご自身が「ネガティブ癖をマインドフルネスで克服した」と書かれていましたね。実際、どのように克服したのでしょうか?
私は10代の頃から「あんなこと言わなければよかった」と過去を後悔したり、「もしも失敗したらどうしよう」と将来を不安に思ったり、「人にどう見られているか」を気にしてクヨクヨしたり、そんな自分を自己嫌悪している自分が嫌いでした。だから自己変革のために、ヨガ、瞑想、気功や心理療法などに興味をもって実践してきたんです。
今も、後悔・不安・自己嫌悪などネガティブな感情そのものが消えたわけではなく、ふとした瞬間にわいてきます。私がマインドフルネスで克服したのは、ネガティブな感情そのものではなく、それらに浸って抜け出せなくなる状態のことです。
マインドフルネスを習得しても、嫌なことは嫌なのです。その「嫌」にこだわって身動きできなくなるのではなく、嫌な気持ちを客観視することで緩和し、できる範囲で一歩ずつ前に進む!それが私のマインドフルネスです。
― 藤井さんがマインドフルネスと出会ったのは30年前だそうですね。どのような出会いだったのですか?
30年ほど前、とある瞑想会に参加したときに「ねぇ、こんな瞑想の手法があるんだけど知ってる? 自分のなかに湧いてくる想念を片っ端から客観視して受け流していくんだよ」と、その場に居合わせた参加者に教えてもらったのがきっかけです。もちろん、当時は「マインドフルネス」という言葉を聞いたことがなかったですし、教えてくれた人も「マインドフルネス」という言葉は使っていませんでした。
― マインドフルネスをはじめてから、どんな変化が起こりましたか?
すぐには変化は見られませんでしたね。それでも、今まで取り組んできたこととは根本的に違うところにアプローチしているという確信があったので、粘り強く続けました。ある日、後悔と恨みの気持ちをマインドフルに客観視したときに、すべては自分の思い込みであることに気づき、ショックを受けました。まさに青天の霹靂という感じでした。それ以後、ますますマインドフルネスへの信頼が固まり、生涯をマインドフルネスに捧げる覚悟ができました。
鮮やかなブルーが印象的な新著 『危機を乗り越えるマインドフルネス』
マインドフルネスは、コロナの時代を乗り切るための武器になる
― コロナ以降、ストレスや自殺のニュースも増えたように思います。まだコロナが収束しない今のタイミングで出されたこの本に、どのようなメッセージを込めたのでしょうか。
コロナが世界中に広がり、日本では、感染を恐れるあまり県外ナンバーの車や開店しているお店に対して嫌がらせをする”自粛警察”の出現、マスクをしない人へのバッシングなど様々な社会問題が起こりました。
もちろん適切な用心は必要ですが、行き過ぎた不安と恐怖は免疫力を下げ、お互いの信用や信頼を損ねてしまいます。私も、マスクをしていない人に対して眉をひそめてしまったことがあります。そのとき、眉をひそめた自分自身に気づき、自分の恐れや不安を客観視し、緩和することができたんです。マインドフルネスはこの恐怖の時代を乗り切るための武器になる、と確信したので、それを伝える本を出そうと決めました。
― 本の執筆中に大変だったことがあれば教えてください。
辛かったことは色々ありますが、その都度マインドフルネスで客観視して手放していますので、忘れてしまいました。
― マインドフルネスの効用がここにも…! では、執筆中に編集者とのやりとりで印象的だったことはありますか?
私はおっちょこちょいで、言葉の表記、漢字やひらがなの統一がとても苦手だったので、何度校正しても直しが入ってしまいました。それを逐一チェックしてくださった編集者の小根山さんには、ひとかたならぬご苦労をおかけしました。
それから、「これはこうだろう」と自分なりに常識だと思ってそのまま使った表現にも確認が入り、結果として自分の思い込みだったというケースもありました。そのまま出版していたら…と考えるとひやひやします。
― 編集の過程で、当初の構想から変わったところがあれば教えてください。
書名に「ウィズコロナ」というキーワードを入れていたのですが、それがなくなったことですね。この時代の不安に訴求したいと思って入れたキーワードでしたが、小根山さんに「ロングセラーを目指すならこの言葉は取ったほうがいい」と言われて納得しました。
― 完成した本のデザインについては、どう思いますか?
できあがった本の装丁は、水色の表紙が美しく、独特の手触りがとてもいい感触で、素晴らしいものだと思います。目をつぶって指を滑らせてみると、それだけでマインドフルネスの扉がひらく感じです。書店で見つけたらぜひ手に取ってみてほしいです。
― 藤井さんは、ブログ、メルマガ、セミナーなど様々なメディアで発信されていますが、発信手段としての「本」をどのように捉えていらっしゃいますか?
本は、セミナーやブログで発信していることに区切りをつけてその時点での完成形として発表するまとめのようなものです。他のメディアと違うところは、編集者さんが入って、きちんとした形で後々まで残るということですね。
講演会に登壇した際の様子
どうしたら幸せになれますか? マインドフルネスに答えがある
― 最後に、漠然とした質問ですが、藤井さんにとって「幸せ」とはどのような状態ですか? また、そのような状態になるためには、どのように生きたらいいと思いますか?
幸せ!これこそまさにマインドフルネスの効用ですね!
たとえば、病気や大けがで痛みが激しい時や心配事で悩んでいる時には「この悩み、苦しみさえ無くなってくれたら幸せになれるのに!」と誰もが思います。そして幸運にも奇跡が起き、病気や痛みが消え、心配事もすべてなくなったとします。きっと「あぁ、幸せだ!」と感じることでしょう。
しかし、しばらくすると欲が出てきます。もっと強く、もっと健康に、もっと裕福に、もっと…と、願いは果てしなく膨らみます。病気や痛みはまたぶり返すかもしれませんし、不安も消え去ることはありません。
そこで役に立つのがマインドフルネスです。悩みや苦しみ、そして欲望を客観視して手放すことができた時、はじめて人は本当のやすらぎを手に入れることができるのです。それこそが真の幸せであると、私は考えます。
「マインドフルネスで幸せになる!マインドフルネスで幸せな社会を創る♪」それが、マインドフルネスに生涯を捧げると決めた私のモットーです。
― お話を聞いて、マインドフルネスの効用をシンプルに理解できたような気がします。今日はどうもありがとうございました。
編集後記
よく耳にする言葉だけど実際にどういうものかはよく分からない。私にとって「マインドフルネス」はそんな言葉のひとつでした。なんとなく難しそうなイメージがあったのですが、30年前からマインドフルネスを実践してきた藤井さんに話を聞いたら、マインドフルネスは人が幸せになるためのシンプルな方法なのだなと気がつきました。悩むこと自体を減らすのではなく、悩みの手放し方を考える。そんな、人間らしい感情を否定しないところもいいなぁと思います。『危機を乗り越えるマインドフルネス』は、私のようにマインドフルネスを知らなかった人も親しみを感じられるような内容になっているので、興味があればぜひ手にとってみてください。(ウェブ編集部 笠原)
プロフィール
藤井英雄(ふじいひでお)
1957年、神戸生まれ。1982年、鹿児島大学医学部卒業。 2011年、心のトリセツ研究所を設立。日本キネシオロジー学院 顧問。メールマガジン「マインドフルネスで 幸せになる!」を通じて、心理学・東洋医学・氣の知識や情報をわかりやすく発信している。40年の瞑想歴、25年以上のマインドフルネス瞑想の実践から、日常生活のなかで手軽にマインドフルネスを習得できる方法を提案。セミナーなどで指導、普及活動を実施してきた。そのわかりやすさと取り入れやすさに定評がある。長きにわたって多くの人のネガティブ思考による悩みを解決してきており、瞑想を説く精神科医として雑誌など、取材も数多い。 著書には『マインドフルネスの教科書』『マインドフルネス 「人間関係」の教科書』(ともにクローバー出版)『1日10秒マインドフルネス(大和書房)』『ビジネスマンのための「平常心」と「不動心」の鍛え方』(同文館出版)などがある。
公式ブログ:心のトリセツ.com
https://ameblo.jp/cocoronotorisetsu/
公式メルマガ:「マインドフルネスで 幸せになる!」
https://www.reservestock.jp/subscribe/133399
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