《再掲》みずみずしい水彩が織りなす、地球の「いのち」と「色」をめぐる冒険。おぶちあきこさんが描く絵本の世界

特集
2021/07/06

 

もしも人の心や音楽が目に見えたら、こんな色やかたちになるのかもしれない。

そんな世界を筆先から生み出し続けている作家の小渕暁子さん。

イラストレーター、デザイナーとして知られる彼女が、ひらがなの「おぶちあきこ」として初めて手がけた絵本が『たいせつなちきゅうの たいせつなともだち』です。

赤い小鳥のナナちゃんが、野菜、穀物、動物などさまざまな地球のいのちに出会いながら、色をめぐる旅をする物語。

発売直後から反響を呼び増刷となったこの絵本が、どのように生まれ、どんなメッセージを伝えているのか。おぶちさんに話を聞きました。

 

 

話を聞いた人:おぶちあきこ(小渕曉子)さん

 

 

イラストレーター・デザイナー

グリーティングカードメーカーの企画室にて、ステーショナリー、水族館グッズのデザインダイアリーなどのイラストを担当し、フリーのデザイナーとして独立。AUBE DESIGNを設立、代表になる。展示会・個展を、銀座松屋、新宿伊勢丹、銀座伊東屋などで行う。イラスト、パッケージデザインにはじまり、アパレル製品、生活用品全般の商品企画、企業のブランドマークデザインなどデザインコンサルタントを手がける。著書に、父である小渕恵三元首相への追憶を記した『父のぬくもり(扶桑社)』、『父が読めなかった手紙(扶桑社)』、『家族の庭』、初めて手がけた絵本『たいせつなちきゅうの たいせつなともだち』などがある。

ウェブサイト http://www.obuchi-akiko.jp/

 

 

 

 

あか、あお、き、しろ。地球の”色”には、それぞれ必然的な理由がある

 

 

― 絵本を読ませていただきました。まだ頭のなかで絵本の世界と水彩の色が広がり続けているような、不思議な感覚があります。絵本を描くのは初めてということですが、描いてみていかがでしたか?

絵本は、もう数十年前から、いつか描きたいと思っていました。ポストカードなど商品としてのイラストは今まで何百枚も描いてきて、ときどき「これを絵本にしたらきっと素敵ですね」と言っていただくこともあったので、いつも描いているようなイラストに言葉を添えたら絵本になるのかな、と思っていたのですが、実際にやってみたら、まったくそうではなくて。とんでもなく難しかったです。絵本の世界って、本当に奥深いですよね。

 

 

― 野菜や果物、動物など、数えきれないほどたくさんのキャラクターが登場する、とてもにぎやかでカラフルな絵本です。この物語はどのように生まれたのでしょう。

はじまりは、自然栽培協会の代表である中西隆允さんと、自然栽培や食の大切さを伝えるにはどうしたらいいだろう、と話していたことでした。絵本をつくることになったのは、女性や子どもたちにも届きやすい、難しくない表現にしたかったからです。

絵本をつくると決まったあとに、自然や食について根拠となる部分を専門家の方に伺いたいね、ということで、ナグモクリニックの総院長、南雲吉則先生に話を伺いました。南雲さんは、「赤、青、黄、白などの地球の色には、それぞれ必然的な理由がある」と仰っていて、「たとえば、フラミンゴが赤いのは赤いエビを食べているからなんですよ」など興味深いことをたくさん教えてくださいました。

そうした色に関するお話がとても印象的だったので、そこから膨らませて30個ほどの小さなストーリーをつくりました。それを、プロデューサーの平田静子さんや編集者の安藝哲夫さんのご協力でまとめてひとつの物語にしたのがこの絵本です。

 


さまざまな色が浮かび上がる絵本の表紙。レストランやカフェにも合いそうな雰囲気

 


フラミンゴのフラミちゃんが、からだの色の理由を話すシーン

 

 

 

名前をつけたら、キャラクターたちが自分で動きはじめたんです

 

 

― 編集を担当した安藝が、「おぶちさんは、きらりきらりと光る形容詞や文章を次々と生み出す。沢山ありすぎて、それをそぎ落とすのが大変だった」と言っていました。たしかにこの絵本には、「わくせいいろのからだ」とか、「”いのち“のちからのいろ」とか、色に関する多彩な表現がたくさん出てきますね。

わたし、生み出すことはいくらでもできるんですよ。ただ、そこからまとめるのがすごく大変なんです。物語もそうですが、イラストも100枚くらい描いたので、最終的にそのなかから選んで構成するのが大変でした。御社を訪ねて、編集の安藝さんと3時間くらい話し合うような日が何度かありましたね。

 


打ち合わせの様子

 

― そんな苦労があったのですね…。ほかに、制作の過程で印象的だったことはありますか?

この絵本で、初めて自分が描いたキャラクターに名前をつけました。今までは、意識的につけないようにしていたんです。理由は、わたしが描いた犬の絵を、自分のワンちゃんに似ているという理由で大切にしてくれる方もいるので、名前をつけることによってイメージを制限してしまうのはよくないと考えていたからです。

でも、今回、初めて名前をつけて。そうしたら、この子たちがわたしの手を離れて、自分で動きはじめたんです。カバのピポポせんせいがみんなを集めて語りだしたり、げんまいくんがおこめちゃんに話しかけたり。これは、初めての感覚でした。

 


絵本に登場するすべてのキャラクターに名前がついています。お気に入りのキャラができると、物語をさらに楽しめるはず

 


おこめちゃんに話しかけるげんまいくん

 

 

 

いつも、完成する一歩手前で筆を止めてしまう

 

 

― 名前をつけることで、キャラクターたちに命が吹き込まれたのですね。作画のほうでは、イラストを描くときと違う心がけなどはありましたか?

イラストを描くときはキャラクターを横向きに描くことが多いのですが、絵本では、前を見て子どもたちにまっすぐ向き合うように描いたほうがいいなと思い、正面の姿を描くことを心がけました。

 

― おぶちさんの絵は、色も線もとても自由なので、子どもたちが感覚的にとらえている世界に限りなく近いのではないかと思います。この作風は、どこからくるものだと思いますか?

あまり意識したことはないですが、わたしがもともと持っているものなのではないかと思います。幼い頃から自然と絵を描いてきて、小学校6年生まで水彩をやっていたのですが、中学生から大学卒業まではずっと油絵で写実をやっていました。そこからまた水彩に戻って、今は画風も子どもの頃に戻ったような感じですね。

 

― そんな変遷があったのですね。

わたしの絵は、評価が分かれるんです。褒めてくださる方もいれば、意味がわからない、完成していないと言う方もいらっしゃる。でも、完成していないというのは、たしかにそうかもしれません。わたし、いつも完成する一歩手前で筆を止めてしまうんです。意識しているわけではないけど、自分で、ここまでだ、というのが分かっているのだと思います。

 


子どもの頃に戻ったという画風。自由でのびやか

 

 

 

生きているうちに、絵本というかたちで伝えたい

 

 

 おぶちさんの絵には、見る人それぞれが好きなことを感じればいい、という余地というか、自由を感じます。それは、完成の一歩前で止めるからこそ生まれるものなのかもしれないですね。

そのように仰っていただけてうれしいです。わたしの絵を見て、笑顔になる人もいれば、涙を流す人もいます。自分がこうだと思って描いても、受け手の印象によって捉え方が変わってくるので、絵はおもしろいですよね。

実は、この絵本を出版したあと、こんなに深いところまで伝わるのか、と感じたエピソードがあって。

絵本の出版記念イベントを行った際に、この絵本の主人公である小鳥のナナちゃんのぬいぐるみを「今日が誕生日の方に差し上げます」というプレゼント企画をやったんですね。すると、ある女性が前に出てこられて「娘の誕生日なのですが、いいですか」と涙を流して前に出てこられたんです。そして「うちの娘の名前もナナというんです」と。その娘さんは亡くなられてしまったそうで、ちょうどそのイベントの日が誕生日だったのです。「娘が生き返ったようで…」と仰られて、ぬいぐるみを大切に持ち帰られました。奇跡のような話なのですが。

 


物語の最後に、赤い小鳥のナナちゃんはナナイロになります

 

― 感じ方を決めつけないからこそ、読む人ひとりひとりの頭や心のなかで自由に広がり続ける絵本なのかもしれないですね。

そうだとしたら、とてもうれしいことですね。実は今、南雲先生と、あと2冊絵本を出したいね、と話しているんです。1冊は「いのち」について、もう1冊は「こころ」について。3部作にしたいねと。これは、人生でやらなければいけないことだと思っています。生きているうちに、絵本というかたちで伝えたいです。

 

― それは、大人でも分かっているようで分からない、永遠のテーマかもしれません。おぶちさんだからこそ伝えられるものがあるのだと感じます。楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

〈おまけの質問〉

 

Q.ここだけの話を教えてください

わたしは色付きのメガネをたくさん持っています。今日はブルーをかけていますが、同じ形のものをあと7色持っているんです。今日は打ち合わせが多い日だったので、心を落ち着かせるためにブルーにしました。ピンクだと逆に、自然と前に出るような感じになります。色によって、けっこう気分が変わるんですよ。それから、ときどき絵を描くときにも色のメガネをかけます。そうすると、頭で考えていたのと違う色に仕上がるので、けっこうおもしろいんです。

 

 

 

 

 

編集後記

 

可憐な佇まいのおぶちさん。わたしがインタビューしていると、ときどき「笠原さんはどうですか?」と聞き返してくれるのが印象的でした。相手に興味を持ち、相手ありきで話す方。その人柄が、絵のタッチや物語にもあらわれているのだと思いました。おぶちさんの絵本は、なにも決めつけず、なにも押しつけません。だからこそ、「あ、自分で好きに感じればいいんだ」と、本来の感覚を思い出させてもらったような気がしました。これは、情報に溢れた社会を生きる子どもたちに、いちばん大事なことかもしれません。もちろん、大人にも。まずは、この絵本のなかに生きるたくさんのいのちに出会って、色々感じてみてください。

 

( 文:笠原名々子  )

 

 

 

 

 

※この記事は、おぶちさんのかわさきFM出演に合わせて過去の特集を再掲したものです。

 

 

《 本について  》

たいせつなちきゅうの たいせつなともだち
作:なぐも よしのり 絵:おぶち あきこ
みんなの色にはふかーーーいワケがある。「食育」を超えて、「自然」「生命」のかけがえのなさを伝える1冊

 

 

 

 

《 関連リンク  》

自然栽培協会
https://anf.or.jp/

ナグモクリニック
https://www.nagumo.or.jp/

おぶちあきこさんウェブサイト
http://www.obuchi-akiko.jp/

 

 

2021.07.06

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