もし、あのおつきさまに手が届いたら…

誰しも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。そんな子どもの頃のわくわくを思い出させてくれる絵本『まんげつのよるのピクニック』。

 

紙や糸などさまざまな素材を切り貼りした温かみのある絵と詩的な表現で、第6回絵本出版賞審査員特別賞を受賞した、のむらうこさんによる作品です。

 

今回、絵本の出版にあたって、制作の裏話から意外な趣味まで、のむらうこさんにいろいろ聞いてみました。

 

 

 

 

 

 

 

話を聞いた人:のむらうこさん

 

 

1976年生まれ。京都大学農学部大学院在籍中に、縁あってデザインの楽しさに触れ、これを機にデザイン/イラスト/絵本制作を始める。本作品で「第6回絵本出版賞」審査員特別賞を受賞。著書に、絵本「ぱん いただきまーす」(ブックオフコーポレーション)、「Delicious Circus」(Bento Books, Inc.)。受賞歴:第2回有田川町絵本コンクール佳作/第6回Be絵本大賞入賞/第6回絵本出版賞審査員特別賞/第13回日本新薬こども文学賞絵画部門大人の部優秀賞。

 

 

 


『まんげつのよるのピクニック』表紙

 

 

 

 

子どもたちが知らない動物と出会えるきっかけに

 

 

ーまず、気になっていたのですが「うこ」というお名前、珍しいですよね。

 

 高校時代に本名がきっかけで「うこちゃん」と呼ばれるようになって以来、そのあだ名で呼ばれるようになりました。今ではこれが自分の名前のようになっているので、本名で呼ばれても自分のことだと気付かないかもしれません(笑)。

 

 

ーそんなエピソードがあったんですね。絵本出版賞に応募しようと思ったきっかけは?

 

もともと絵本をつくっていたのですが、作品の制作を決めたらタイミングや内容を調べてコンテストに応募するというのを10年くらい前から続けていました。今までの受賞作や出版されている絵本の雰囲気から、ここに決めました。

 

 


『まんげつのよるのピクニック』原画。3匹が揃ってまんげつを見上げていて可愛らしいですね。

 

 

ー絵本に登場するカモノハシ、ハリモグラ、クオッカって珍しい動物ですよね。

 

動物を主人公にするにあたって、フォルムが可愛いものがいいと思い、カモノハシを選びました。そこから、カモノハシの生態を調べて、同じ夜行性でオーストラリアに住んでいて、サイズ感のバランスも良いハリモグラとクオッカを登場させました。今回、初めて動物を主人公にしたんですけれど、ハリモグラは魅力的なフォルムに描くのが難しかったのでデフォルメしました。日本ではあまり馴染みのない動物かもしれませんが、写真で見てもとても可愛らしいので、この本をきっかけに子どもたちが興味を持ってくれたら嬉しいです。

 

 

 

 

心に溜まった物語が、今の創作に影響を与えてくれる

 

 

ー作中の「おつきさまのうたをうたっています」「ひかりはかぜがふくたびぱらぱらとちらばって」などの詩的な表現が、読者をこの世界観に引き込んでくれるように感じました。文章を書くのは、昔から得意だったのですか?

 

小さい頃、家にはテレビが置かれていませんでした。なので、絵本や小説をたくさん読んでは、その世界観にどっぷり浸かって楽しんでいました。その影響か、文章を書くのはあまり苦手ではないです。読んだ本の内容は結構忘れてしまうことも多いのですが、ひとつの場面のイメージだけとか、ひとつの文章だけとかが心に残っていたりして。そういったものが溜まっていって、今の作品に影響を与えてくれている気がします。

 

 


詩的な表現と浮かび上がる月の光が美しい1シーン

 

あと、小学生の子どもが2人いるんですけど、宿題の音読で毎日毎日同じ物語を聞かされるんです。「また~?」と思いますが(笑)、何度も聞いているうちに表現の面白さを発見することがあったりして、それも創作活動に繋がっているのかもしれません。

 

 

ーのむらさんは農学部出身なのですよね。大学では、どのようなことを学ばれていたのですか?

 

応用動物科というところで、東北大学の学部生だった頃は牛の卵子の凍結保存方法、大学院では環境ホルモンに関する研究をしていました。動物が好きで生物に関心があって選んだ専攻です。牛の人工授精師の資格取得実習なども経験しました。

 

 

 

 

 

 

ふだん何気なく使っているものを、絵本の表現に取り入れる

 

 

ー大学院生時代に、縁あってデザインと出会ったそうですが、どういう経緯だったのですか?

 

体調を崩して大学院を休学していたときに、京都の町おこしの学生ベンチャーを立ち上げた他大学の友達を手伝っていました。そこで地元商店の地図のデザインやイラストを描いたりしているうちに面白さを感じました。もともと絵を描くことやモノ作りが好きだったことを思い出したといいますか。そのあと京都を離れてから別の会社でデザインの仕事を3年ほどさせてもらい、今はフリーランスで活動しています。

 

 

ー絵本を読んでいると、静かなに、動物たちのいる場所だけぽっと明かりが灯ったような温かな空気が流れているように感じられます。表現の上で、何かこだわりはありますか?

 

絵の深みや臨場感が増すように、受賞の後、全体的に陰影を描き加えました。瓶に入っている月の周りの光は、毛糸を切って貼っています。普段から、いろんな紙を集めていて、花束を包む不織布とか、梱包の用紙とかを集めています。この作品では使用していませんが、押し花を作って貼ったり、本物の小石を貼ったりすることもあります。特に、刺繍糸は使いやすくて万能なんですよ。

 

 

 

 

 

 

絵は日々、アップデートし続ける

 

 

ーふだん気に留めない小石や紙に、そんな活かし方があるなんて驚きです。今後は、どのような活動をしていきたいですか?

 

絵本はずっとつくり続けていきたいと思っています。絵を描くことは、ルーティーンな仕事でも飽きません。今回は画材にこんな工夫をしようとか、こんな表現に挑戦してみようとか日々アップデートされていくので、その都度作品を何らかのかたちで出せたらなと思います。あと動画にも挑戦してみたいです。コマ撮り動画とか。そんなことを知人の方にポロっと話したら、なんとカメラを贈ってくださって! これはもうやらない理由がないです (笑)。

 

 

ーいつか、のむらさんの動く絵を見られる日を楽しみにしています。たくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

 

 

 

 

 

おまけの質問

 

Q.「ここだけの話」を教えてください。

 

実は今、趣味でバイオリンを習っています。元々は子どもたちが、幼稚園での体験教室で始めたものですが、楽しんでいるけれど何年経っても上達しなくって。そんなに上手くならないものなのか!? と思って、先生に楽器をお借りして試しに挑戦してみたら確かに難しかったんです。でも、なんだか意外にもハマってしまいました(笑)。今、小5の息子と同じ楽譜を習っています。私自身は毎朝1時間くらい弾いているのですが、気持ちと身体が整う気がして、制作を始める前の大事な時間です。

 

 

 

(取材・文:ゆのき うりこ 撮影:近藤 直美)

 

 

 

 

《 本について 》

まんげつのよるのピクニック
著者 のむらうこ
きらきら まんまる とってもきれい。みずうみに浮かぶお月さま、つかまえた!