さあ! 知の冒険に出かけよう。『世にも奇妙な博物館』の作者 丹治俊樹さんに話を聞きました。

特集
2021/09/16

 

 

「博物館は知ることの喜びにあふれている」

 

そう話すのは『世にも奇妙な博物館』を出版した博物館マニアの丹治俊樹さん。

彼の本は、読む人が思わず「そうだったんだ!」と声を出してしまうほど、驚きと発見がつまっています。

 

「そろばん」や「トイレ」などコアな世界に焦点を当てた全55箇所の面白博物館。

今回は、そんな博物館を巡り全国各地を旅する彼に、現在に至るまでの経緯や出版に対する思いを聞いてみました。

 

 


『世にも奇妙な博物館』表紙

 


氷見昭和館(富山県)

 


世界の貯金箱博物館(兵庫県)

 

 

 

 

話を聞いた人:丹治俊樹(たんじ・としき)さん

 

 

博物館マニア・日本再発掘ブロガー

1987年神奈川生まれ。フリーエンジニアのかたわら、日本の知られざる場所を発掘して取材・調査をまとめたブログ「知の冒険」を運営。本業でうつ病を患うも、博物館が好きすぎて、本業以外の時間を全て日本全国の博物館取材に費やす。ブログを始めてからの6年間で訪問した博物館は、約750箇所にのぼる。東洋経済オンラインなどのwebメディアに取り上げられるほかラジオ番組へも出演しつつ、日々博物館の魅力を発信している。https://chinobouken.com/

 

 

 

 

 

ニッチな場所をあえて選ぶ

 

 

— 丹治さんが全国各地の博物館を巡るようになったきっかけは何だったのですか?

 

もともと珍スポットを巡るのが好きで、本を書くまでは、博物館だけではなく、お店や公園、遊郭などジャンルにこだわらず色々な場所を訪ねていたのですが、1年半前くらいにあるテレビ番組のディレクターさんから博物館がテーマの番組の出演依頼をいただいて。結局、その番組出演の話はなくなってしまったのですが、そこから自然と興味や行き先が博物館に絞られるようになりました。

 

 

— 多くの博物館を巡られていますが、どうやって見つけているんですか?

 

すごく現代的な方法なのですが、行きたいエリアを決めたらGoogleマップで「博物館」と検索して、面白そうだなと思った場所に行っています。口コミに「館長さんがフレンドリー」って書いてあるとさらに興味が湧いて。ユニークな館長さんだと、すごくたくさん話してくれるんです。レコードがたくさん展示されている長崎の音浴博物館では、開館直後から閉館の時間までずっと滞在していました。あとは現地で人と話して、おすすめの博物館を教えてもらったりもしています。

 

 

 
今回の取材は、丹治さんが前から気になっていたという新宿歴史博物館で行いました

 

 

 

 

 

知られていない真実を求めて

 

 

— 今まで訪れた博物館は750箇所もあるそうですね。そこから本に掲載する55箇所を選ぶ上で、意識した点は?

 

館長さんの熱やユニークさも含めて、とにかく自分が面白いと思ったところを集めました。

 

 

— 本のタイトルやデザインから、奇抜な博物館ばかり紹介する本かと思っていたのですが、単純に面白いだけではなく、アイヌ、震災、ハンセン病、戦争などシリアスなテーマを扱った博物館も紹介されていて、勉強になりました。

 

掲載した場所の半分以上は本の制作に取りかかる前から知っていたり、すでに訪れたことのあった場所なのですが、世間に知られていない真実を紹介している博物館も意識して選びました。

岡山県の長島愛生園歴史館に行ったとき、僕は初めてハンセン病を知ったんです。難しい内容に感じるかもしれませんが、本では普段使わない言葉はわかりやすく書き換えたり、砕けた表現をしているので読みやすくなっているかとは思います。

 

 


長島愛生園歴史館(岡山県)

 

 

— 本について、博物館の方から何かリアクションはありましたか?

 

それぞれの博物館の館長さんや学芸員さんには、本を出す前に原稿確認をお願いして、完成した本も送りました。「面白かった」とか「よくこれだけ巡りましたね!」とか色々な反応をいただけてうれしかったです。愛生園もTwitterで本を紹介してくれました。

博物館を開く理由って、やっぱり知ってほしいという想いからなんですよね。ハンセン病への差別や偏見が生まれてしまったのも、正しい情報がちゃんと伝わらなかったから。博物館の方たちと話すと、もっと多くの人に来てほしい、知ってほしい、という想いを感じることが多いです。この本をきっかけに、実際に足を運ぶ人が増えたらいいなと思います。

 

 

— 特に、訪れて欲しい博物館はありますか?

 

行く度にいろいろな感動があるので順位がつけられないのですが、衝撃度が高かったのは群馬県の重監房資料館ですかね。

小さい頃からよく父親に群馬に連れて行ってもらったり、大学時代には草津でスキーのインストラクターをしていたりしたので群馬にはよく行っていたのですが、資料館の存在を知らなかった上に、内容も驚きだったんです。

全国の療養所にいるハンセン病患者のなかで特に反抗的だとみなされた方が送られる「特別病室」だった場所なのですが、実際は病棟というより収容所のような様子だったらしいです。部屋は8部屋あるのですが、一時期はそこに10人ほど入っていたらしくて。窓もない布団しかない4畳半の部屋にですよ。

 

 

— ということは、1部屋に2人で入っていたこともあったということですよね。

 

そうなんです。食事も粗末なものしか出なかったようで、2人入っている部屋では、どちらかが亡くなったときに、死体を隠して2人分の食事をとっていた人もいたそうです。最終的に死体の臭いに耐えられなくて報告したらしいのですが、それだけ食事も大変だったんだと衝撃を受けました。

 

 


重監房資料館(群馬県)

 

 

 

 

 

こうじゃなきゃいけないなんて決まりはない

 

 

— 話を聞いていると、丹治さんの行動力と探究心には本当に驚かされます。何かきっかけがあって、身についたものなのでしょうか?

 

きっかけは、東日本大震災ですね。当時、僕は大学生で、スキーの大会中だったので群馬県にいたんです。そこで、宿に帰った時に津波の映像を見ました。同じサークルのメンバーが電車が動いていなくて東京からこっちに来られないからと車で迎えに行った時に、ガソリンの給油が追いついていないということがあって。ニュースで見たことが自分に降りかかるってこういうことなんだと実感しました。

ただ、僕は今までニュースを全く見てこなかったので、過去の災害や事件の話を例に出されても前知識がなくて全然頭に入ってこなかったんです。そこで、過去の出来事や歴史を自分で調べるようになりました。物事を知る習慣はそこから培われたと思っています。

 

 

— 好奇心の赴くままに全国を巡るというのは、周囲の人に珍しがられることもあると思います。周りの目はあまり気にならないのですか?

 

僕自身、まだ気にしてしまうところはあるのですが、だんだん気にならなくなってきました。

好きなことをするためには、犠牲にしなければいけないこともあって。平日は仕事して夜はブログ書いて、休みの日に珍スポットや博物館を巡っていると、それ以外の時間がないので、今までいろいろな誘いを断ってきました。

今回、半年間仕事を休んで本の制作に取りかかったのですが、はたから見ると大丈夫なの? って思われることもあるんです。旅の途中、うまくいかなかったらどうしよう、もし自分がホームレスになったら…とか色々考えたのですが、結局、それはそれで楽しめるんじゃないかと思ったんです。そうすると、徐々に周りの目を気にしなくなってきたんですよね。好きなことができたらいいって。無理やりそう思おうとするのではなく、自然と。

好きなことに没頭することが、周りの目や世間体を気にしなくなる近道なのかもしれません。

 

 


 

 

それと、もうひとつ。博物館を巡る前に、風俗街について調べていたことがあって、夜のお店の客引きや店長をしている方たちと知り合いました。ブログをはじめる前は、周りには自分と同じような生活や考え方の人ばかりだったのですが、自分と全く違う人たちと出会うようになったんです。

世の中には色々な人がいると情報として知っているのと、実際に出会うのとでは全然見え方が違います。こんな生き方もあるんだ、と思うと、僕も好きなように生きようと思えるんですよね。

 

 


昭和レトロ情景館(兵庫県)

 


都立第五福竜丸展示館(東京都)

 

 

 

 

 

足を運んで得る発見

 

 

— 若者のあいだで今「昭和レトロ」が流行っていますが、それについてはどう思いますか?

 

そうみたいですね。僕のSNSでも、レトロな写真っていいねがつきやすいんですよ。昭和レトロの展示をしている場所は全国にたくさんあるので、最初のきっかけは「映え」でもいいから、そこからさらに興味を持って調べるようになってくれたら嬉しいですね。マイナーな博物館とかだと、自分から面白さを探しにいかないといけないので、少しハードルが高いと思うのですが、そういった親しみやすいところから入って、どんどんのめり込んでいって欲しいです。

 

 


 

 

— 最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

 

読むだけじゃなくて、実際に足を運んで欲しいと思っています。

僕の活動に対して、時々、「直接行かなくてもネットで調べるだけで十分じゃない?」と言われることがあるんです。足を運ぶとなると、時間もお金もかかるしコスパが悪いと。でも僕は、行くことに意味があると思うんです。

例えば、山梨県のポール・ラッシュ記念館は北杜市にあって少し行きづらいのですが、癒されるためにわざわざ行く人たちがいるんですよ。行くと気持ちがリフレッシュできるそうで。

やっぱりそれってネットでは感じられないことですし、自分で見て聞いて感じることが大切なんだと思うんです。

この本には僕が見て感じたこと、伝えたいことが詰まっているのですが、実際に行くと、見る人にとって違った見え方ができると思うので。それをぜひ実感して欲しいですね。

 

 

— お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

 

 


名和昆虫博物館(岐阜県)

 

 

 

 

 

取材・文:ゆのきうりこ
写真:f.m.portrait
取材協力:新宿区立新宿歴史博物館

 

 

 

 

 

《 本について 》

世にも奇妙な博物館』 
著者 丹治俊樹
まじめな人たちがまじめに作ってしまった、とんでもない博物館ガイド

 

 

 

 

2021.09.16

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