《再掲》自由に、気取らず、お一人さま。日常の疲れから逃亡してみませんか? 『お一人さま逃亡温泉』の加藤亜由子さんに話を聞きました。さぁ旅に誘われましょう!

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By 南田美紅・miku / 2021.12.02

 

 

 

照りつける太陽、忙しいなか気を遣い、気がつけばクタクタになって眠る日々。

毎日の慌ただしい時間の流れから、少しだけ逃げだしたくなるときがある。


「どこかに行きたい」「ただただボーとしたい」「
ゆっくり読書がしたい」「思う存分に眠りたい」


そんな言葉をポツリと呟いてしまった経験はありませんか?

少しだけ、「今」から逃げて、ひとりでフラッと散歩に出かけるように、温泉に浸かりに行きませんか?

 

そんな旅を紹介している本が『お一人さま逃亡温泉』です。


この本の特徴は、場所や泉質より、「どんなところに行きたい気分か」でカテゴリー分けされた温泉が紹介されているところにありますが、発売されてから異例の早さで重版が決まったことから、
多くの人の気持ちに寄り添う本だということが早くも証明されつつあります。

 

本を開く前に、著者の加藤亜由子さんに「逃亡」の極意を聞いてみましょう。

 

 

 

 

 

話を聞いた人:加藤亜由子(かとうあゆこ)さん

「お一人さま温泉旅」文筆家

1983年生まれ。本業のコピーライター・広告制作の仕事をしながら、1人で温泉をめぐる旅を趣味として、その様子をつづるWebサイトやInstagramを運営。今回初めて温泉本の上梓にいたる。2004年には、詩集「ミュールは脇道を歩いていく」を上梓。現在、詩誌GATEの同人メンバーでもある。Website / Facebook / Instagram

 

 

 

 

 

日常の疲れを、深く息を吐き出しながら湯に浸かり、浄化してみる。

 

 

 

―いきなりですが、「逃亡温泉」ってインパクトのあるタイトルですね。

 

自分のスケジュール帳に、温泉に行く日を「逃亡」と書いているんです(笑)。「温泉」とか「旅行」じゃなくて、「逃亡」。それが本のタイトルになりました。

わたしにとって温泉に行くことは、追われるような日常や、気遣いの毎日、そして自分でもイヤになるくらいの過剰な自意識からの、逃亡だと思っています。

ふだんコピーライターの仕事をしているのですが、仕事って失敗できない感じがあるじゃないですか、失敗しちゃいけないって思って気を張っていると、疲れるんです。

ポジティブな人間ではないので、だいたい、「あーもうやだ、あーもう逃げたい」とずっと言っているタイプです。

日々、疲れているんだと思います。今も逃げたいですもん(笑)

だって逃げたいじゃないですか。逃げたくならないですか?

 

 

―たしかに、そんな瞬間ってありますね。逃げたいと思った時に、逃げられる場所があるというのは重要ですよね。温泉に浸かると、疲れやストレスは浄化されますか?

 

はい、一瞬だけ(笑)

東京に戻るとすぐにダメな状態に戻るんですけど。でも必ず一瞬は浄化されます。

「ああ、疲れた〜疲れた〜」とあえて言葉にして、深いため息を吐き出しながら温泉に浸かると、全身から力が抜けていきます。

日頃の疲れとか愚痴とか、どうでもよくなる感じがしますよ。

仕事や自分の生活に近い場所に逃げてもダメなんです。少し遠くに出かけるからこそ、「なんかそんな大層な悩みじゃなかったかもしれないな」「逃げた先にこういう人生もあるな」と違う視点が見えたりして、「あ〜浄化されたなぁ」という気持ちになるんです。

 

 


『お一人さま逃亡温泉』の1ページ

 

 

 

 

 

「日常の延長線上にある旅」が心をほぐしてくれる。

 

 

 

―ずばり聞くと、「逃亡」の極意とはなんですか?

 

「今日から旅行だ!」というように気を張った感じではなく、「あーなんか愚痴がたまってきたな、そろそろ温泉でも行こう」という感じの、日常の延長線上にある旅が好きなんです。

でも、世間一般的にみると、旅って、こんなことを見て感動したとか、こんな体験ができたとか、感動や発見がベースで語られていることが多いですよね。それってどこか日常から切り離されたもののような気がしていて。

山を長時間登って島を渡って、などのいわゆる「冒険」のようなことは苦手で頑張れないんです。

わたしの旅は「逃亡」なので、べつに何かを頑張りたいわけではないんですよね。

だから、旅行のときはすっぴんで、特別なものは何も持っていきません。最小限の荷物だけ。

ちょっと仕事して、逃亡して、温泉入って幸せだな〜くらいがちょうどいいんです。

日々、自分の中でどういうことが起こっていて、どんなことを思ってこの温泉にたどり着いたかというところを大切に思っていて、あまり日常と切り離されない「旅」の方が居心地いいんです。

 

 


本の中には、お一人さま逃亡温泉の「五つの心得」が。まさに「逃亡」の極意ですね。

 

 

 

 

 

今の気持ちを自分で理解することが重要。気持ちとお湯がリンクする最強の極楽時間。

 

 

 

―加藤さんは、行く温泉をどうやって選んでいますか?

 

よく人から「おすすめの温泉はどこですか」と聞かれるのですが、そういうときはむしろ「今はどういう気分ですか?」と聞き返したりしますね。

ひとりになりたいとか、海鮮食べたいとか、家族で行きたいとか、仕事で嫌なことがあってのんびりしたいとか、ガツンと熱いお湯に浸かりたいとか。そういう気分で選ぶほうが楽しい気がするんですよね。

自分でも、自分の気持ちを分かるようにしたいといつも思っています。

自分の気持ちを知るって、すごく大事なんですよ。

気持ちとお湯がリンクするときがあって、それが噛み合うと最強なんです。わーっとなる。まさに極楽です。

 

 

―今回の本は、気持ちや気分によってカテゴリー分けされた温泉を紹介する内容になっていますが、このユニークな分類と文章は、どのように生まれたのですか?

 


 

最初にカテゴリーごとのタイトル文からつくっていったんですよ。

もともと温泉に行く時は、自分の中に気持ちがあって、それに基づいて温泉を選んでいたので、その思いを文章にしてみました。

仕事でうまくいかない時は「謙虚さを取り戻さねばならない」とか、ただ本をダラダラと読みたいなという時は「文豪気分で引きこもりたい」とか。

わたしも温泉に行きだした時は、まだそこまで温泉のことを掴めてなくて、露天風呂の絶景やお湯に色がついているなど、わかりやすいところに感動するくらいしかできませんでした。でも、何度も行くうちに、それだけではない気持ちになれる温泉があることに気づきました。

 

 

 

 

―どんな人に、この本を手にとってもらいたいですか?

 

温泉好きの方にはきっと楽しんでもらえる内容だと思いますし、ひとりで行こうと思っていたけどまだ行けてなかった、とか、久しぶりに温泉に行ってみようかな、と思う人にも読んでいただけるとうれしいです。

毎日、慌ただしく過ごしているみなさん。

わたしは「頑張る」という言葉が嫌いなので(笑)、頑張るとか言わなくていいんですよ!

逃げましょ、逃げましょ〜♪

 

 

 

行きたい温泉に行き、したいように過ごす。

ま〜るい湯にほぐされる旅もあれば、ガツンと熱い湯に喝を入れてもらう旅もある。

地元のおばちゃんに説教される旅もたまにはいいし、絶景を前に、自分のちっぽけさを痛感する旅もいい。

お一人さま逃亡温泉は、癒やしという枠を超えて、今ではすっかり私の命綱というか、生きるための杖というか。

さまざまな湯質が、そのときどきの気分や悩みに寄り添って、おおらかに受け止めてくれる。この安らぎや解放感は、気疲れ人間の救いになると思います。 

 

(文中より抜粋)

 

 

―「逃亡」とは今の生活のモヤモヤを浄化させる大切な手段なのだなと感じ、わたしも温泉に行きたいと思いました。みんなが「逃亡」を生活に取り入れて、ときどき温泉で気持ちをほぐしたら、私たち個々が持つ生きづらさが、少し減りそうですね。今日はありがとうございました。

 

 

 

 

 

〈 おまけの質問 〉

 

Q.ここだけの話はありますか?

 

この本は、基本的には自分の思うままに書いたのですが、ある旅館さんがこの本を読んで「感動しました。自分たちが表現できなかったこと、どうやったら伝わるんだろうと苦戦していたことを、こんな風に文章にしてくださってありがとうございます」と感想を送ってくださって。それをいただいてから、この本は自分だけのものじゃないなと、改めて思いました。

お湯は基本、地元の方のものだと思います。

お湯を絶やさずに大事に守り続けるというのはすごいことで、それをいただきに行くというリスペクトの気持ちは常に持っています。

お湯に浸かると、丁寧に仕事をしている人がいるんだなと思えて、また謙虚になれるんですよね。

あぁ、早く行きたいです、温泉に。

 

 

 

 

 

(取材・文:南田美紅)

 

 

 

※この記事は、毎日新聞への広告掲載に合わせて過去の特集を再掲したものです。