私たちの過ごしている日常のほうが、特別なことなのかもしれない
『かごそとのぴーぽっぽ 』制作秘話

ニュース
2024/04/25

5/1に発売となる小亀たく さんの最新作『かごそとのぴーぽっぽ』

大人気のぴーぽっぽシリーズ三作目となる本作は、一作目『じーさんとぴーぽっぽ』の前日譚を描く、いわばエピソード1になっています。

 

これまでのシリーズでは小鳥と人間の命の終わりをテーマにしてきた小亀さん。

しかし、今回は地球温暖化や戦争といったテーマにも踏み込んで、今の私たちに大切なメッセージを投げかけてくれています。

 

一体どんな経緯で『かごそとのぴーぽっぽ』が誕生したのでしょうか。

編集長の川口さんに、制作過程のお話や作品への想いをインタビューしました!

 

🌱インタビュイー🌱

川口 光代 編集長

京都出身。絵本部門の編集長であり、歌手でもある。

みらいパブリッシングが制作している絵本のテーマソングのボーカル担当。

小亀さんの絵本に惚れ込み、シリーズを通してぴーぽっぽの編集を務めている。

Instagram:@mitsuyo_undeuxtrois

 

 

制作のきっかけは「ぴーぽっぽの歌」

 

—ぴーぽっぽシリーズの三作目を作ろうというお話は小亀さんの方からしてくださったのですか?

 

私の方から「三作目も作りたいですね」というお話は軽くしていました。

でも『きいろとしろ』が発売されるタイミングで『じーさんとぴーぽっぽ』が落語になるという凄いことが起きて、そのお祝いの会を開いた際に、小亀さんが『かごそとのぴーぽっぽ』の原型になる絵本をもう作ってきてくださったんです。

 

『かごそとのぴーぽっぽ』の原型になった手作り絵本。手のひらサイズです

 

—豆本でかわいいですね!原型になった絵本を読んだ第一印象はどうでしたか?

 

これまでの二作品は誰かの命の終わりを描く内容だったので、三作目は誰が亡くなってしまうんだろうと心配していたんです。

そうしたら今回は誰も亡くならなくて、ちょっとホッとしました(笑)

三作目であえて時系列的に一番初めのストーリーを描くというのも、作家として上手だなと感じました。

 

それから、私たちが作った『じーさんとぴーぽっぽの歌』からインスピレーションを受けて描いてくださっていたことがわかって、とても嬉しかったです!

歌の中に「かごの中はたぶん、外なのかもしれない」という一節があるんですが、そこから小亀さんが着想して今回の『かごそと』を作ってくださいました。

私たちが作った歌と小亀さんの絵本の世界が融合して、新たな作品を生み出せたようで感激しました。

これから読む方には、ぜひ歌と絵本を両方楽しんで、ぴーぽっぽの世界を立体的に感じてもらえたらと思います。

 

「じーさんとぴーぽっぽの歌」

 

絵本作りは三人四脚で

 

—『かごそとのぴーぽっぽ』の制作過程での工夫や印象的な出来事はありますか?

 

小亀さんと松崎社長と私で作品を作り上げていく中で、印象的なことはいくつもありました。

 

たとえば、『かごそと』ははじめ一人称で書かれていたんです。

でもそうすると、ぴーぽっぽの視点でしかストーリーが語られないので、情報量が必然的に制限されて読者にメッセージが伝わりにくい部分がありました。

なので、私が「三人称で描いてみませんか」とご提案したんです。

すると第三者の視点になったぶん情報量が増えたんですが、今度は可愛さが減ってしまって(笑)

やはりぴーぽっぽならではの愛らしい語り口も作品に欠かせない魅力だという話になり一人称に戻してもらいましたが、三人称にしたときに増えた要素はそのまま残ったので結果的にストーリーに広がりが出ました。

 

—語り手を変えるという工程を経て、可愛さと内容の豊かさを両立できるようになったんですね。

 

そうですね。小亀さんと一緒にたくさん試行錯誤しました。

試行錯誤といえば、松崎社長が「作者の思想や批評的な意見を作品に乗せてほしい」というリクエストを小亀さんに出したんです。

なので今回の絵本には、小亀さんが以前から取り組まれている地球温暖化の問題や、現在でも世界中で起こっている戦争のことなど、目を向けてほしい事柄へのメッセージが込められています。

 

でもぴーぽっぽは純粋無垢なキャラクターなので、批判的な意見を言わせると違和感が出るんじゃないかという点には、小亀さんも頭を悩ませていました。

最終的に、ぴーぽっぽではなく新しく登場したワタリドリのキャラクターに語らせることを思いついてくださって、その過程でワタリドリの性格や雰囲気も固まっていきました。

ワタリドリとぴーぽっぽは見た目が似ていますが、前者はクールなキャラ、後者は子どものように純粋なキャラ、というように対比も生まれて上手くいったと思います。

 

—内容を練っていくうちにキャラクターができていくんですね。

 

実は最初、鳩とカラスと雀がワタリドリから聞いた地球の話をぴーぽっぽに教えてくれるというストーリーだったんですよ。

それだと話の伝わり方が間接的だし、キャラクターのまとまりも良くなくて。

ワタリドリのみに絞っていただいたことで、絵本全体がぐっと引き締まりました。

 

 

作っていく中でアイデアが生まれる

 

—絵に関しても何か工夫した点はありますか?

 

ぴーぽっぽがワタリドリの話を聞いているシーンが数ページ続く箇所があるんですが、最初は画面があまり代わり映えしなかったんです。

でも絵の中にフレームを描き足してページごとに色を変えたり、フレームを崩れさせたりすることで変化を出してくださいました。

フレーム内の情景が、今ぴーぽっぽが居るところとは別の次元だということも視覚的にわかりやすくなったと思います。

制作する過程でこういうアイデアが段々と引き出されていくのが面白いですよね。

 

 

—確かに最初の絵よりもさらに良くなっています!他にもこだわりが?

 

ワタリドリが火事で焦げてしまった羽を見せる場面があって。

はじめは小亀さんの配慮で控えめな表現になっていたんですが、子供はストーリーを聞きながら描写を探すので、探したときに「ここだ!」と思ってもらえるように変えていただきました。

逆に描写が怖すぎてもその後の展開が頭に入ってこないかもしれないので、絶妙な塩梅を目指しました。

 

原画の美しさが伝わる印刷を

 

—今回の絵は、これまでと違ってキャンバスに描いているように見えるのですが?

 

そうですね。

キャンバスに手描きという、小亀さんの絵本では初めての手法が使われています。

これまでも、一作目は画用紙に描いた絵をデジタルでコラージュ、二作目はデジタル無しでの制作と、毎回作画方法が変わっています。

手法を確立するまで色々試して可能性を広げたいという想いを持って、いつも新しいチャレンジをしてくださっているんです。

今回はキャンバスの質感が出るように印刷にも気を配ったので、ぜひじっくり見てほしいです。

 

—印刷にもこだわりがあるんですね。

 

はい!『かごそと』は青色の印刷にもこだわりましたよ。

 

試し刷りの段階で「青が黄味がかっているのが気になる」と小亀さんから指摘をいただいたので、印刷所の方に相談して調整してもらったところ、最終的に理想通りの色に仕上がりました。

青は『かごそと』の中でも重要なカラーなので、綺麗に色が出て良かったです。

 

印刷の仕上がりは紙や画材によって大きく変わるので、感覚を掴むのが難しくて。印刷所のオペレーターさんが調整してくれるのですが、なかなか狙い通りの色が出ないときもあります。

だから、出てきたものが丁度良かったときにはもう拍手したい気持ちです!(笑)

 

最後に

 

 

—細部までこだわり抜いて作り上げた絵本だということがよくわかりました。
今絵本が完成してみて、川口さんが改めて思う『かごそとのぴーぽっぽ』の魅力はどんなところですか?

 

ぴーぽっぽの可愛さをもう一度引き出せているのが一番の魅力だと思います。

あと、小亀さんが普段何を考えて生活しているのか、どんな姿勢で絵本作りに取り組んでいるのか、といった人柄が感じられる絵本に仕上がったのも嬉しいですね。

 

私たちの過ごしている日常のほうが、目の前の幸せのほうが、特別なことなのかもしれない。

そんなふうに考えるきっかけをくれる作品だし、読んだらまた一作目から読み返したくなると思います!

新鮮な目で読む方々が、どんな感想を抱いてくれるのかとても楽しみです。

 

 

『かごそとのぴーぽっぽ』は絶賛発売中!下記のリンクからもご購入可能です

かごそとのぴーぽっぽ

 

1作目『じーさんとぴーぽっぽ』

優しいじーさんと幸せに暮らしていた桜文鳥のぴーぽっぽ。
でもある日じーさんが入院することになったんだ。
ジュミョーって?身近なひとがいなくなるってどういうこと?
じーさんが教えてくれた大切なこと。

 

2作目『きいろとしろ』

前作『じーさんとぴーぽっぽ』のもう一つの別のお話(アナザー・ストーリー)。
主人公のセキセイインコきいろの目線で、鳥たちが生きる世界の楽しさ、人の家で暮らす白文鳥しろと桜文鳥ぴーぽっぽとの出会いと別れを描く。

 

2024.04.25

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