人と一緒にいることは、世界をもっと広げること。孤独と信頼、愛情のものがたりを描く絵本作家、山咲めぐみさんにインタビュー

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By 市岡光子・mitsuko / 2021.04.26

みらいパブリッシングの絵本の中で、多くの反響をいただいている『ふたりのひとりたび』。

自然のマクロな世界を切り取った写真の美しさや物語から伝わるメッセージが話題を呼んでいます。

今回はその『ふたりのひとりたび』の著者、山咲めぐみさんに絵本の制作過程や物語に込めた想いなどをお伺いしました。

 

 

 

話を聞いた人:山咲めぐみ(やまさきめぐみ)さん

 

妖精の歌を撮るフォトグラファー/イラストレーター

主な受賞歴に、「第4回わぉ! な生きものフォトコンテスト」わこちゃん・おっくん賞、「第36回『日本の自然』写真コンテスト」山梨県一賞、「第17回『美しい日本を撮ろう』フォトコンテスト」BSフジ賞、「第3回写真出版賞 アート部門」最優秀賞。

ウェブサイト https://www.megumiworld.com/

 

 

 

 

自分がつくった枠を超える。日常を超えてしか、面白いものはつくれない。

 

 

 

― もともとフォトグラファーとして活動していた山咲さんが、『ふたりのひとりたび』を出版することになった経緯を教えてください。

私らしい表現を模索する中で、写真と絵を組み合わせるという方法にたどり着いたのがきっかけです。新しい表現方法で絵本を自主制作しようと思い立って、『ふたりのひとりたび』の原作となる絵本をつくりました。

自主制作の絵本をちゃんと出版するにはどうしたらいいかを考えていた時、ある講演会で出会った方に「これは面白いから賞に応募してみたら」と教えていただきました。それで、第5回絵本出版賞に応募したところ優秀賞をいただき、みらいパブリッシングから正式に出版することが決まりました。

 

 

― なるほど。写真とイラストを組みわせる絵本をつくる場合、どんな風に制作するのですか?

まず写真を選んで、それに絵をつけていくことが多いです。1枚の絵を描くのに20枚くらい候補を出して、一番面白い絵が描けそうな、インスピレーションをもらえる写真を選んでいますね。写真選びだけで2日かかることもあります。

 

 


まるでホイップクリームのような植物の写真が、物語を引き立てます。

 

 

― 今回の絵本に出てくるキツネと鳥という登場人物は、どうやって決まったのでしょうか?

以前、キツネや鳥の絵を描いて、私のFacebookに投稿したことがありました。その時に、キツネを描くのが楽しいと感じて、絵本では絶対にキツネを登場させようと思っていました。

 

 


山咲さんが水彩で描いたキツネ。このキツネを描いたとき、「楽しい」と感じて絵本の登場人物に。

 

 

あとは、今わたしが一番仲良しな動物が鳥なんです。わたしは山中湖のそばに住んでいるのですが、とても自然が豊かな場所で、ヒマワリの種を手に載せると、鳥たちが食べに来てくれるんです。そうして交流するうちに「鳥ってかわいいなあ」と改めて思ったので、キツネと鳥に決まりました。

 

 

― 鳥と仲良しな方に初めてお会いしました…! 一番身近な動物だからこそ、絵本の中で生き生きと動き回る鳥のイラストを描けるのですね。

いえ、実は鳥のイラストは応募する時に、かなり描き直しました。それまでのイラストでは、リアルな鳥を忠実に再現して描いていたんです。毎日見ているからこそ、「鳥はこういう生き物」と目に見えたもの、分かっているものを無意識に描きました。でも、それだと鳥の絵に”いのち”が感じられなくて。

 

 

― 現在の鳥のイラストにたどり着くまでには、試行錯誤があったのですね。

キツネは身近にいないからこそ、想像力を働かせて描きます。だから、最初から自由な動きをさせてあげることができました。鳥もキツネのように自由に描こうと思って修正して、今の絵本のようなイラストができあがりました。

自分の既成概念とか固定観念は、想像力を潰してしまう。日常を超えてしか、面白いものはつくれないんだな、と思いました。自分でも気づかずに作ってしまった“枠”に、制作の中で気がつくことができました。

 

 


水滴の上を走る鳥が、いまにも動き出しそうです。

 

 

 

人と一緒にいることは、世界をもっと広げていくことだから。

 

 

― 今回の絵本では、キツネの心情の変化に合わせて、文字の色も変化しています。これも山咲さんのアイデアですか?

文字に綺麗な色をつけてくださったのは、編集の方です。キツネの気持ちが変化するのに合わせて、絵本に色が増えていくことを意識していたのですが、それを文字でも表せたので嬉しかったです。

 

― キツネの気持ちの変化といえば、ひとりを好んでいたキツネが鳥と一緒に旅をするようになって、優しい言葉や表情に変わっていくのが印象的でした。物語には、どのような想いが込められているのでしょうか?

あの物語は、私自身が「人と一緒にいることは、世界をもっと広げていくことなんだ」と思えた経験を描いています。

私はもともと、人が求めるものや人が良いと言うものに従って、常に周りを意識して生きてきました。でも、それを突き詰めすぎてしまった結果、体を壊して、人間関係も行動も全部がうまくいかなくなってしまったことがあって。

 

 


ひとりを好み、「ひとりたび」に出ていたキツネが

 


鳥に出会い、一緒に旅をする中で愛情が芽生え

 


最後のページでは、こんなに優しい表情で鳥と一緒に眠っています。

 

 

― そうだったのですね…。

その時に自分を見直して、初めて「ひとりになろう。ひとりをちゃんと感じてみよう」と思って、現在の拠点である山梨県に移住しました。

そうしたら、ひとりでいることがすごく楽しくて。もう、なんか自分だけでいいじゃん、誰とも関わらなくていいやと思っていました。

そんな生活の中で、たまたま今の主人と出会いました。でも体を壊した経緯もあって、最初は主人と一緒にいることが怖かったんです。人との関わり方も分からなくなっていたし、また前のように自分を見失ってしまうかもしれないと思って。

 

 

― その時の気持ちが、物語の初めの部分に反映されているのですね。

そうかもしれません。

当時の主人に対しても、自分を出したら嫌われるんじゃないかと思うと、関係をつくっていくことがすごく怖かった。でも、少しずつわがままを言ってみたり、これは嫌だということを伝えてみたら、大丈夫だったんです。ああ分かった、いいよ、それが嫌なんだね君はって受け入れてくれた。

主人と交流を深めていくうちに、「人のことを気にしないで、自分をもっと出して接してみよう」と思うことができました。そして、受け入れてもらう経験を重ねるうちに、自分のことがどんどん好きになった。

だから、絵本の中でもそのような物語を描こうと思って。キツネも鳥に受け入れてもらって、自分が好きになれたと思っています。

 

 


キツネがひとりで行こうとしても、ついてくる鳥。キツネは少しずつ、心を開いていきます。

 

 

― なるほど…。その山咲さんの経験が、今回の絵本の大きなテーマになっていたのですね。

はい。主人と出会うまでの私は、人と一緒にいると世界が制限されると思っていたのですが、違いました。人と一緒にいたら、自分の新たな面を発見できるし、世界をさらに広げていくことにつながるのですよね。

そういうことを、絵本を通して伝えられたらと思っていました。

 

 

― 今回の絵本の出版後、反響はいかがでしたか?

色々な方から感想をいただきました。写真がきれいという声はもちろんなのですが、多かったのが、キツネが上着を脱ぐシーンが衝撃だったという感想です(笑)

 

 


ふっくらして見えたキツネ、実は上着を着ていたのでした!

 

 

これまでいただいた中で、すごく嬉しかった感想が2つあります。

友達の子ども姉弟が絵本をとても気に入ってくれて、弟くんは毎晩寝る前に読み聞かせをねだるそうです。一方お姉ちゃんの方は、私が歌った絵本のテーマソングを聞いて「なんか知らないけど泣けちゃうんだよ! LiSAよりも綺麗な歌声だよ!」って言ってくれたそうです。それを聞いて嬉しすぎて私の方が泣きました。

あとは、SNSで知らない方から「人生に疲れていて、絵本を読んで涙が出た。友達もコロナ禍で色々抱えこんでいるので、この絵本をプレゼントしたい」と言っていただけて、大人にも響く作品なんだなと思えました。

 

 

 

自然の声を感じとる。山咲さんならではの写真が撮れる秘訣とは?

 

 

― 山咲さんの絵本は、マクロな自然の世界を捉えた写真が本当に素敵だと思うのですが、被写体を自然にしようと思ったきっかけはありますか?

体を壊した時、小金井の実家近くの自然が豊かな公園を散歩していたら、たまたま目に入った自然を「きれいだな」と思ったことがきっかけです。当時、心身ともにボロボロで何もできない時期があったので、心の隙間を埋めるように花や朝露をiPhoneで撮影しはじめたんです。

 

 

― iPhoneからはじまったのですね。本格的にカメラで撮りはじめたのは?

友達と会っていた日にiPhoneを失くしてしまって、位置情報を追跡したら、翌々日には中国に渡っていて…。ああ、もうこれは「カメラを持て」ということだなと思ってカメラを買いに行きました。

 

 

― カメラの技術は、どこかで勉強されたのでしょうか。

カメラを持ちはじめたころは、独学でした。気になる撮影のやり方を、ひとつひとつネットで調べていました。だから、最初はマニュアルとオートの違いも分からなかったんですよ。

これじゃだめだと思って、2年前に講座を受けました。そこで初めて基礎の「キ」を理解しました。でも未だにカメラの機能の2割くらいしか使いこなせてないと思います。

 

 

― 山咲さんの写真は、被写体の選び方のオリジナリティがとても高いと思います。被写体はどのように選ばれているのでしょうか?

自然の中にいて、はっと気になったものに注目して、写真に収めています。気になったところに面倒くさがらずに行ってみると、「自然が呼んでくれていた」と思うことが度々ありました。

例えば、木から呼ばれたような声がするので近づいてみたら、ヒグラシが飛んできて目の高さのところで鳴きはじめたことがありました。光にあたって姿が透けて見えるヒグラシが本当にきれいで、木が「素敵なものがあるよ」って教えてくれたんだなと思って。その時から、自然とのコミュニケーションを意識して、気になるところには行ってみるようにしています。

 

 


自然のマクロな世界を鮮やかに描き出す山咲さんの写真は、どの写真も見とれてしまいます。

 

 

― 「自然からの合図」を敏感にキャッチして、写真に収めているのですね。

そうなんです。山梨に来てからは人も少ないので、普段から自然と話すようにしています。毎朝「おはよう!!!」と挨拶していて、はたから見たら変な人なんですけどね(笑)

人間と話すよりも、植物や虫と話す時間の方が多いかもしれないです。そうすることで、自分のアンテナが自然寄りになっていて、すごく小さなことでも写真に撮ってみると、絵本のような写真が撮影できます。

「よくこんな写真が撮れたね」と言われるとうれしいんです。私にしか撮れない、みんなを驚かせられるような写真を撮影したいと思っています。

 

 


森の中を歩いていたら、仲良くなった鳥なのだそうです!

 

 

 

 

〈おまけの質問〉

 

Q. ここだけの話を教えてください

最近、「毎日あるある」と称して、今日あった良いことや自分を褒めたいことをスマホで書き出すのを習慣にしています。わたしは自己肯定感があまり高くないのですが、はじめて2か月経って「今の自分はなかなか素敵な気がする!」と思えるようになってきました。ちなみに書いているのは「今日は昼寝しないで頑張った」など、ハードルは低めです。

 

 

 

 

 

 

 

( 文:市岡光子  )

 

 

 

 

 

《 お知らせ  》

絵本『ふたりのひとりたび』を、著者・山咲めぐみさんより寄贈いたします。
小児科、幼稚園、保育園、児童養護施設、読み聞かせの会など、子どもが集まる施設が対象です。(※)
山咲さんご本人から発送の手続きを取らせていただきますため、該当施設の関係者からご依頼いただくものに限ります。
絵本寄贈をご希望の方は、件名を「絵本の寄贈希望」として、CONTACTからご連絡ください(山咲さんのウェブサイトに移動します)。

 

山咲さんからのメッセージ

「キツネとトリちゃんが、沢山の子供達に会いたがっています。
喜ばれるととっても張り切るタイプなので、ぜひ皆さんの元に呼んであげて下さい!」

 

※ 今回は対象外の方への寄贈はお断りしております。ご了承いただけますと幸いです。

 

 

 

《 本について  》

 

ふたりのひとりたび
著者 山咲めぐみ
「とくべつに ふたりでひとりってことにすれば これはひとりたびだ」ツンデレなキツネ君のやさしさと、鳥さんのけなげさにキュンとくる、友情と旅のものがたり。写真とイラストでみずみずしくも温かい世界を描いた、新感覚の絵本。

 

 

 

 

 

《  関連リンク 》

山咲めぐみさんウェブサイト
https://www.megumiworld.com/

『ふたりのひとりたび』テーマソング