この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
毎月2回、月はじめと中頃に、コメントと未発表の詩を公開していきます。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
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近所をぶらぶら散歩していると、いまちょうど梅の花が見頃です。
桜の蕾も少しずつふくらんできています。
3密のカフェに入りたくないので、自販機の缶コーヒーを買って戸外で飲むのがぼくのささやかな楽しみです。
「人間らしく」
ベランダで
布団と
枕を
日干ししていたら
光と風が
ぼくに
話しかけてくる
聞いてほしいことが
たくさんあるらしい
彼らに
ぼくは問う
人間は
このままでいいんだろうか?
世界は
この先どうなるのか?
ぼくに
たいくつしたのか
今度は
布団と枕を相手に
遊んでいる
人間は
人間らしく
滅びるだろう
自らの問いのナイフを
胸に突き刺したままで
「ゴミの詩」
いまは
錆びついて
曲がっていても
かつては
まっすぐで
輝いていた釘
いまは
色あせて
すりきれていても
かつては
鮮やかに
人目を引いていた服
いまは
古ぼけて
傾いていても
かつては
暮らしを
見守っていた家
みんな
ほんとに
お疲れさま
キミたちは
ゴミなんかじゃない
それぞれが
物言わぬ
歴史の証人なのだ
「小さな家」
広い庭と
たくさんの部屋がある
大きな家に住みたいと思う
けれど
やっぱり
小さな家がいい
大きな家は
ぼくらに
ふさわしくない
呼んだら
すぐに
返事が返ってくる
小さな家に
暮らしていたい
「会津からの手紙」
奈津子さんに
来月
君は会津から
東京へやってくる
若い心に
希望を抱いて
大学で
近代文学の
勉強をするという
でもいまは
中島らもにも興味を
持っていると知って
君の将来が
少し心配だ(笑)
若さの勢いで
書かれた手紙は
本人より一足先に
東京のぼくのところへ
やってきた
手紙には
ぼくの詩との出会いが
手書きの文字で記されていた
いまは
気が向いたときに
送られてくる
君からのメールに
笑みを浮かべて過ごす日々
春三月
はじめて会うには
ふさわしい季節
まだ少しだけ
寒さも残っていて
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谷郁雄さんへのメッセージや詩のご感想はこちらまでお送りください。
webkikaku@miraipub.jp (みらいパブリッシング ウェブ編集部)
《 記事一覧 》
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。
《 谷郁雄さんの本 》
『大切なことは小さな字で書いてある』
詩に飽きたら、また日常へと戻っていけばいい。 「詩の時間」シリーズの第1作目。
『バナナタニ園』
「楽園、ここにあります」谷郁雄の詩×吉本ばななの写真×寄藤文平の絵。ページを繰るほどに愛着がでてくる、楽園へのパスポート