この連載について

こんにちは、みらいチャンネル編集長の笠原です。

個人的な話で申し訳ないのですが、わたしは最近、失恋したばかりです。

失恋してから、本をよく読むようになりました。

読まなくても、本のそばにいると落ち着きます。

この連載では、そんなわたしが実際に読んで、立ち直る手助けになったと感じる本を1冊ずつ紹介していきます。

 

 

 

 

今日おすすめする本

 

タイトル:『明け方の若者たち』
著者:カツセマサヒコ
出版:幻冬舎 /2020年

 

 

みんなが注目している本を買うのはなんか悔しいから、1ページ読んでいやだったらやめよう。

そう思いながら読みはじめたら、とまらなくなって、もう買うしかないなと思わせたのがこの小説です。

 

たとえば、そこに机があることを、そこに机があるとそのまま伝えるより、もっと伝わる言い方をしてくれる。

これはそんな小説で、物語のなかで起こる出来事よりも、その出来事を伝える道案内の仕方が好きでした。

 

2013年、就職活動を終えこれから社会人になる主人公が、恋をして、社会人になり、等身大の悩みを抱えながら生きていく日々を描いた小説です。

あと数日で巨大隕石が地球を直撃するとか、事故で記憶喪失になって、とか、そういう激動の展開はありません。

でも、一文一文がきらめくので、読み応えがありました。

 

 

“二十七回だけ、彼女は僕の言うことを聞いてくれた。”

「写ルンです」が27枚撮りであるということが、この一文でキラキラ輝きます。

日常って退屈じゃないのかもしれないと気づかされることばかりでした。

ヒーローや魔法使いのいないこの世界も、なかなか素敵です。

 

物語のなかで、主人公は恋をし、失恋します。

失恋して、のたうち回るように苦しみます。

そんな主人公のもとを尚人という友人が訪ねてきて、アドバイスをします。

それが、失恋した人にかける言葉としてとても適切なように思えて、心に沁みました。

沁みすぎて、あれ、尚人ってわたしの友達なのかな?とまで思えてきました。

(はやく友達をつくったほうがいいですね)

 

 

あと、この本の静かな装丁も、とても好きです。

もし静けさが色を持っていたらこんな色なんじゃないかと思わせる、深い青。

最初、絵だと思っていたら、これは写真なのだそうです。

本をしっとりとくるむこの写真も、ひとつの物語みたいで素敵です。

この静けさを、自分のカバンに入れておきたい。

そう思ったのも、この本を買うしかないと思わせた理由のひとつだと思います。

 

この本を買ったのが、7月のはじめ。

いま、2回目を読みはじめています。

もう一度、主人公と一緒に恋をして、一緒にのたうち回ってみようと思っています。

では、行ってきます。

 

 

 

 

・・・おまけ・・・

撮影で使わせてもらった喫茶店はこちらです。

蔵を改装した店内にはしっとりとした雰囲気が漂っていて落ち着きます。

読書のときは大きめのライトが置いてある席を選ぶといいと思います。

 

喫茶 蔵 (東京都足立区北千住)
Googleマップ https://goo.gl/maps/QsoPoU1bmQm28EgD6

 

 

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プロフィール

 

みらいチャンネル編集長 笠原

フリーランスライター、ホテル勤務を経てみらいパブリッシングに。2020年からみらいチャンネルの初代編集長を務める。映画を観るのは苦手だけど本は好き。

笠原への励ましのお便りや、みらいチャンネルについてのご意見はこちらまで
webkikaku@miraipub.jp

 

イラスト提供:草成(くさなり)

島根県生まれ。絵本作家、イラストレーターとして活動している。
第2回絵本出版賞で2部門同時受賞を果たし、現在計3冊が発売されて人気を博している。

『植物界』大人向け絵本部門最優秀賞(ポエムピース)
『おすしときどきおに』審査員特別賞(みらいパブリッシング)
『ねことおばあさん』(みらいパブリッシング)