詩人・谷郁雄の日々の言葉 33
この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
・・・・・・・
桜も終わり、緑が美しい季節の到来です。
ぼくの詩の連載は2週間ごとの更新ですが、みらいチャンネルの事情で、前回からずいぶん間が空いてしまいました。
久しぶりに新作を4つ、お届けします。
お便りや感想など送っていただけると嬉しいです!
「メール」
メールを
送ってから
メールを送ったと
電話する二度手間
それから
電車を乗り継いで
電話の相手に
会いにいく三度手間
それから
メールの内容を
一から詳しく
話す四度手間
ほんとは
ただ
その人と
コーヒー飲みたかっただけ
「自明」
何よりも
自明のこと
いま
生きていること
いつか
死んでしまうこと
時が流れ
季節が
めぐり続けていくこと
人は
やさしくも
残忍にも
なれること
椅子や
ベンチには
お尻で座ること
帽子は
頭に被り
靴は
足に履くこと
光が
影を作ること
今日は
明日には
昨日と呼ばれること
何よりも
自明のこと
詩は
めったに
読まれないこと
「世界」
真っ白な
心で見つめる
朝日はまぶしい
はじめて
世界を知った日のように
黒ずんだ
心で眺める
夕日はいとおしい
はじめて
世界を失う日を思って
「ほくろ」
あなたが
元気でいる間は
いつでも会えると
思っていたから
会わないままに
日々が過ぎた
あなたが
いなくなったら
やっと
あなたに
会いたくなった
一人
目をとじて
泣いているような
あなたの笑顔に
小さなほくろが
あったのを思い出す
・・・・・・・
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。