詩人・谷郁雄の日々の言葉 29
この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
・・・・・・・
マンションの上の階に住む若夫婦に第二子が誕生しました。
一人目
うるさくしてご迷惑をおかけするかも
「夕日」
妻は
お絵かきに夢中
ぼくは
ポエムの制作
先生は
どこかへ
行ってしまった
窓の外には
夕日が
るりるりと
光を放っている
お母さんも
お父さんも
迎えにこない
じょうずに
かけたねって
ほめてほしいのに
「ゴミ箱」
勇気を出して
書くこと
書いたものを
読み返し
だめなものを
ゴミ箱行きにすること
ゴミ箱の中に
誤って
傑作を捨てたかもしれない
という愚かな妄想も
ゴミ箱に捨てること
一年の冒頭に
改めて
自戒せよ
これらの
地道な作業から
収穫できる果実は
ほんの一握りにすぎないのだと
「小径を歩く」
いつも
小径を歩いてきた
木や
木の葉や
猫をさわりながら
小径には
昨日と
今日と
明日がある
手を伸ばせば
人々の
くらしにさわれる
見上げれば
空は近い
華やかなものは
何もないけれど
心楽しいことが
たくさんある
これからも
小径を歩く
元気な日も
弱っている日も
大通りの
喧騒を
遠い潮騒のように
聴きながら
「外で遊ぶ」
朝は
外で遊ぶ
昼も
外で遊ぶ
夕方も
外で遊ぶ
夜は
家に帰り
心の中の外で遊ぶ
遊び疲れて
布団に入り
夢の中の外で遊ぶ
どんな子供でしたか?
と問われれば
そんなふうに
答えることにしている
・・・・・・・
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。