詩人・谷郁雄の日々の言葉 28
この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
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皆さま、あけましておめでとうございます。
たまたま元日が新しい詩の更新日になりました。
なんだか喜ばしい気持ちです。
今年も連載を続けますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
皆さまにとって素敵な1年になりますように。
「念力」
互いの近況を
知らせ合って
じゃあまたねと
ケータイを切った
便利な
世の中に
なったものだと
思うけれど
遠くの人に
届きますようにと
必死に念を送った
昔のほうが幸せだった
「宝くじ」
宝くじは
買わないと
心に決めている
どうせ
当たりっこないと
思っている
からではない
間違って
当選したら
そのときから
人生は狂い
不幸の連鎖が
始まると信じているから
「人は」
空や
雲や
木が
美しい日
人は
人の心の世界に
帰ってくる
ときには
崇高で
ときには
邪悪な
ぼくの心や
あなたの心に
「リクガメ」
大きな
リクガメの上に
毛だらけの
カピバラ
そのまま
リクガメは
ゆっくり前進
いったい
二匹で
どこへ
行くのだろう
行くところを
探しているのは
行くところが
特にないからだ
リクガメに乗って
遠い
心の果てまで
行ってみたい
「ありふれている人生」
人は
ありふれている
人生も
ありふれている
けれど
君は
かけがえのない
唯一無二の人
ありふれている人の
一人として
かけがえのない
君が生きる
ありふれている人生
ありふれているものの
気楽さと
かけがえのないものの
重さの
両極に
引き裂かれて生きていく日々
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《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。