詩人・谷郁雄の日々の言葉 27
この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
・・・・・・・
これが2021年最後の詩のお届けです。
最後にふさわしい詩をと
少し早いです
「プロフィール」
プロフィールに
ずらりと
並べられた肩書
そこから
分かることは
その人が
肩書を集めることに
情熱を傾けてきた
人間だということ
中身は
からっぽのままで
「竜巻のあとで」
一面
ガレキの野原
視界を遮るものは
何もない
黒人の男性が一人
何かを
捜している
いまはもう
心の中にしかいない
妻の面影を
「網目」
良心の
網目から
こぼれ落ちる
小さな不正直
そのせいで
また
ぼくの心が
カゼを引く
そして
外が
寒かったからと
背中で
ウソをつく
「毛玉」
十二月になって
セーターを
引っぱり出した
去年の
セーターには
小さな毛玉が
たくさんくっついている
毛玉は
かわいいマリモみたいに
風にそよいでいたけれど
心を鬼にして
ハサミで一匹ずつ
ちょん切って
ゴミ箱に捨てた
毛玉の分だけ
やせたセーターに
今年もよろしくと
頭を突っこむ
・・・・・・・
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。