詩人・谷郁雄の日々の言葉 26
この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
・・・・・・・
気がつけば、もう師走。
なんとなく心がざわざわしてきて、カラフルな木の葉が舞い散って、ぼくの好きな季節の訪れです。
今年は夏に『詩を読みたくなる日』という詩集がポエムピースから出たり、新しい出会いもあったり、娘が結婚したりと、いろいろなことがありました。
本日、4つの詩をお届けします。
また感想でもお寄せください。
「ウロコ雲」
魚の
ウロコのように
キラキラ
光っている雲
また
一日分
深くなる秋
自分の心に
手を突っこむと
何かやわらかなものが
指先にふれる
そこから
詩が生まれる
子宮のぬくもり
「死んだ小鳥」
恐る恐る
世界に
ふれてみた
やわらかいもの
かたいもの
つるつるしたもの
ざらざらしたもの
どんな
気持ちがしたか
誰にも言わなかった
痛かった
くすぐったかった
心地よかった
いつか
その気持ちを
誰かに伝えたかった
死んだ小鳥が
どんなに
冷たかったかを
「才能」
才能の無さを
悲しむ日々
けれど
それは
努力の喜びを
かみしめる日々
「犬の思い出」
脳細胞が
一日十万個ずつ
死滅して
脳もずいぶん
風通しよくなった
子供の頃
犬を遊ばせた
家の近所の
小さな野原に
帰っていく気分
風と
光と
雑草しかない世界
犬と
ぼくとの
幸せな時間
・・・・・・・
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。
谷郁雄さんの本