この連載について

日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。

詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。

2週間にいちど、ここでお会いしましょう。

 

 

 

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このまま秋になるかと思っていたら、強い日射しが戻ってきました。

窓を全開にしても汗ばむくらいの気温です。

夏の残り火のような一日を楽しむことにします。

新しい詩が書けそうな予感があるのですが、最初の一行が見つかりません。

あなたは詩を書きたいと思ったことがありますか?

 

 

 

 

「コーヒーカップ」

 

誰にも
読んでもらえない
手紙のように
君はひとりぼっち

ひとりで食べ
ひとりでお風呂に入り
ひとりごとを言って
ひとりで笑って
ひとりで眠る

朝になっても
やっぱり
ひとり

けれど君は
おそろいの
コーヒーカップを
大切に持っている

ひとりの日々を
二人で
なつかしく
思い出す日のために

 

 

 

 

 

「止血」

 

鋭利な
夏の光で
指を切った

指から
したたり落ちる
鮮血が
スニーカーを
真っ赤に染めた

生きることの
恐ろしさ
せつなさ

指の痛みは
新しい日々の
始まりの兆し

ぼくは
草をちぎって
傷口をふさぐ

ずっと昔
子供の頃に
そうしたように

 

 

 

 

 

「気をつけて」

 

他に
いい言葉が
見つからないので
使い慣れた
その言葉を
ぼくらは口にするのだ

ぼくらが
運命に翻弄される
無力で
小さな存在である証に

母は子に
妻は夫に

手垢で汚れた
お守りのような
その言葉

今日の空の下に
再び
新しい響きで

「気をつけて」と

 

 

 

 

 

 

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谷郁雄さんへのメッセージや詩のご感想はこちらまでお送りください。
webkikaku@miraipub.jp

 

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インタビュー

 

《 谷郁雄さん プロフィール 》

1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。

 

《 谷郁雄さんの本 》

詩を読みたくなる日
小さな希望について書かれた40篇の日々のポエム

 

 

 

 

大切なことは小さな字で書いてある
詩に飽きたら、また日常へと戻っていけばいい。 「詩の時間」シリーズの第1作目。

 

 

 

バナナタニ園
「楽園、ここにあります」谷郁雄の詩×吉本ばななの写真×寄藤文平の絵。ページを繰るほどに愛着がでてくる、楽園へのパスポート