この連載について
日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。
詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。
毎月2回、月はじめと中頃に、コメントと未発表の詩を公開していきます。
2週間にいちど、ここでお会いしましょう。
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満開の桜にスマホを向けて、道行く人たちが写真を撮っています。
まだ4月になる前に一気に咲いてしまった慌て者の桜。
でもやっぱり見とれてしまいます。
ぼくは花粉症と副鼻腔炎から耳の具合が悪くなり、耳鼻科のお世話になっています。
嬉しいような苦しいような春の日々です。
「ジャイアント馬場さんの大きなおしり」
ジャイアント馬場さんに
会えなかった
一度でいいから
そばで
見上げてみたかった
一度だけ
出会いの
チャンスはあった
その日
ぼくが乗ったタクシーの
運転手さんが
ぼくに言った
「お客さんの前に
乗せたお客さん
誰だと思います?
ジャイアント馬場ですよ」
馬場さんの
大きなおしりの
やさしいぬくもりを
ぼくのおしりは感じていた
運転手さんは
少年の目をして
こう言った
「馬場さんが
どすんと座ったら
車がぐらりと
傾きましたよ」
「大冒険」
ぼくらは
ついつい
忘れがち
おならも
あくびも
いねむりも
一回限りの
大冒険
新聞も
テレビも
取り上げてくれないけれど
「肺の標本」
切り取られ
標本にされた
二つの肺
一つは
ヘビースモーカーの肺で
黒ずんだ色
もう一つは
ノンスモーカーの肺で
きれいなピンク色
でもさーと
誰かが
鋭い指摘
「どっちの人も
死んじゃったんだよね?」
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谷郁雄さんへのメッセージや詩のご感想はこちらまでお送りください。
webkikaku@miraipub.jp (みらいパブリッシング ウェブ編集部)
《 記事一覧 》
《 谷郁雄さん プロフィール 》
1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。
《 谷郁雄さんの本 》
『大切なことは小さな字で書いてある』
詩に飽きたら、また日常へと戻っていけばいい。 「詩の時間」シリーズの第1作目。
『バナナタニ園』
「楽園、ここにあります」谷郁雄の詩×吉本ばななの写真×寄藤文平の絵。ページを繰るほどに愛着がでてくる、楽園へのパスポート