連載|月曜日のショートショート|第25話『にんげんっていいな』

連載
2021/02/22

この連載について

毎月、第2・第4月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第25話 にんげんっていいな

 

 

 

4限の授業が始まった時だった。

 

先生が

「今、自分が何者だか分からない人」

と投げかけた。

 

みんなは黙ったままで僕だけが手を挙げている。

 

「では、関くんは授業が終わったら職員室に来なさい」

先生は前足を丁寧に折りたたんで、手元にある出席票か何かにチェックを入れた。

 

授業が終わると、僕は校舎の2階にある職員室へ向かった。

 

「ごめんね。呼び出しちゃって。関くんの様子を見ていて、ずっと心配していたんだよ」

 

職員室には僕と先生しかいない。

 

「ほら、体育祭のリレーの時ね、みんなが上手に羽根を使って飛んでいるのに、君だけ頑なに足を使って地面の上を走っていたでしょ? あれを見て確信しちゃったのよ。ああ、まだ関くんは変われてないなぁって」

 

先生は10本あるうちの上から2番目どうしの足を組んで、まるで人間がそうしていた時みたいに考え込むそぶりをした。

そんな姿をみて、もう先生は違う世界にいるなと思った。

 

「先生、僕の父は、身体がどうなったとしても、ずっと人間だと思い続けて生活しなさいと言っています」

 

その言葉を聞くと、先生は胸にある目を大きく開けて言った。

 

「どうなんだろうね〜。じゃあ人間の定義って何だろう。ああいう手があって、ああいう足があって、ああいう頭をしていると人間って言うのだろうか」

職員室に飾られた「かかし」というタイトルの絵画を眺めている。

 

「例えば、ほら、いまここを飛んでいる1匹の小蝿。あの小蝿が自分のことを蠅だと思って飛んでいると思うかい? きっと違うだろうね。何者だとも思っていないよ。鏡をみて、自分のことを綺麗とか醜いとかも思わないんだ。そういうことから、やっと解放されたんじゃないか僕たちは。イケメンとかハンサムとかそういう言葉が嫌いでね〜。何で、そういう人間だけが優遇されていたんだろうね、あの頃」

先生は触覚を大きく広げた。これは威嚇を意味している。

 

「だいたい何だって言うんだい。太っているとか痩せているとか、高いとか低いとか、大きいとか、小さいとか、あの世界に誰一人として〝普通〟なんて存在していなかったでしょう。何に僕達は怯えていたんだろう!でも、いまはどうだい!清々しいよおお!」

 

窓の外では酒井や山下が部活動のサッカーをしている。

 

あれだけドリブルが得意だった酒井は、サッカーボールを抱え込むようにして空を飛んでいた。

その羽根も足も、先生のそれとそっくりだった。

 

「だから、関くん、今日くらいは羽根を使って帰りなさいよ」

嗜めるように先生が言い、僕の羽根を先生が無理矢理背中から取り出した。

すると羽根は想像より遥かに大きく、シュルシュルと広がる僕の羽根で職員室が一杯になった。

 

「うわあああ!!!」

先生は僕から離れた。

 

これから僕達はこの身体でも優劣をつけていくのだろうか。

羽根が小さいとか目が大きいとか足が太いとか言い合うのだろうか。

1ミリも違わない均一されたロボットのような世界。

そうでなければ差別は無くならないのだろうか。

 

職員室の窓をガラガラと開ける。

グランドでは山下がゴールに突進していた。

 

羽根を大きく広げた僕はチャイムの音を合図に空へ飛ぶ。

羽根は街全体を覆った。

夜になったと勘違いして電気を消した者もいた。

 

先生が窓から

「いやああああ!気持ち悪いいい!」と叫びながら、スマートフォンで僕を撮影している。

 

 サイレンのような声をした先生の叫び声が校庭中に響き渡る。

そんな中、僕の羽根で翳った校庭で、山下と酒井が見上げて僕に手を振っていた。

 

「せきー」

「せきちゃーん」

 

部活のせいで彼らの身体は泥だらけだ。

 

「おれ、今日ハットトリック~、酒井は0点だけど~」

「ばか、お前1点も決めてないだろ!」

 

見た目は変わってしまったけれど、山下は山下で、酒井は酒井だった。

 

「帰り、コンビニで、おでん買ってこー」

 「せきちゃんの驕りでね~」

 

 呑気な2人に向かって泣きそうになりながら僕は言った。

「お前ら、こんなにデカい羽根広げて飛んでる俺見て変だと思わねぇの!? 変わってるとか思わねぇの!? サッカーまともに出来なくなった自分らの身体見て泣きそうになんねぇのかよ!」

 

街に夕焼けが沈殿している。

沈殿した夕焼けに風が吹くと、海岸の波のように行ったり来たりする。

 

「せきちゃん、馬鹿じゃないのかい。何だか知らんけど、俺はせきちゃんが風船持って空飛んでるように見えてるよ~」

「おお、俺はせきちゃんが、女子のおしり追いかけて走ってるように見えてるぜ~」

 

ギャハハと笑う2人の声が、僕の胸に響いた。

2人の心は誰よりも強かった。

 

僕の顔にある父さんそっくりの目から涙が出た。

母さんそっくりの鼻から鼻水が出た。

じいちゃんそっくりの口からはおでんが食べたくてよだれが出た。

 

夕暮れに染まったサッカーボールが、現実と空想のキリトリ線に沿う様に転がっていく。

ボールはこのままどこへ向かうのだろう。

 

僕は羽根を閉まって、山下と酒井と歩いて帰ることにした。

3人の影は人間の形をしていた。

 

 

 

 

 

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《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.02.22

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