連載|詩人・谷郁雄の日々の言葉 -5-

連載
2021/01/31

この連載について

日々の暮らしの中で、感じたこと、思ったこと。

詩人の谷郁雄(たに いくお)さんが、日々から生まれた詩をつづる連載です。

2週間にいちど、ここでお会いしましょう。

 

 

 

・・・・・・・

 

 

1月31日。今日はみずがめ座生まれのぼくのバースデイです。

だから何なんだと言われてしまえば、返す言葉もありません。

ただただ馬齢を重ねました。

「未知の世界」という詩は、二十歳頃のぼくのある夜の出来事を描いています。

だから何なんだ?

 

 

 

 

「未知の世界」

 

思い出は
とつぜん
蘇る

消えかかっていた
小さな炎が
風に煽られ
ぱっと
燃え上がるように

時は一九七〇年代中頃

いままさに
ぼくは
広岡さんの
パンツを脱がせて
未知の世界へ
突き進むところ

 

 

 

 

「挿入」

 

右手の
こぶしを
かるく握りしめ
ぐずぐず
布団の中にいたら

こぶしの穴に
妻が
人差し指を
挿入してきた

こぶしを
ぎゅっと
握りしめてやったら
ふふっと
笑いがこぼれ落ちてきた

生きてる?

生きてるさ

 

 

 

「希望について」

 

ぼくらが
ちっぽけな
希望を
育てたり
枯らしたり
している間にも

ミサイルや
潜水艦や
核爆弾を
製造している人たちがいる

造るなら
使いやすくて
安くて
性能のいい
洗濯機を造れ
掃除機を造れ

爆弾を
造るよりも
人にやさしい
義足を造れ

 

 

 

 

「押し花のつくり方」

 

散歩の途中で
花を見つけます
そばに人が
いないことを確かめて
手早く花を
引っこぬきます
そのとき
花が悲鳴をあげ
涙ぐんでも
ひるまないこと
そして
何事もなかった
かのようなふりをして
持参した
文庫本の
ページを適当にひらき
虫の息の花を
ページにそっと挟み
心を鬼にして
一気に
本をとじてしまいます
あとは
生きた花が
押し花になるまで
誰にも
見つからない場所に
本を隠して
やさしい人のふりして
生きていくのがいいでしょう

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

谷郁雄さんへのメッセージや詩のご感想はこちらまでお送りください。
webkikaku@miraipub.jp (みらいパブリッシング ウェブ編集部)

 

 

 

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作者プロフィール

谷郁雄(たに いくお)

1955 年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。
大学在学中より詩作を始め、78 年に大学を中退後、上京。
90 年に『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。
93 年『マンハッタンの夕焼け』が小説家の辻邦生の目にとまり、第3回ドゥマゴ文学賞の最終候補作に。
詩集に『自分にふさわしい場所』『日々はそれでも輝いて』『無用のかがやき』『思春期』『愛の詩集』『透明人間 再出発』『バンドは旅するその先へ』『バナナタニ園』他多数。
詩集の他に、自伝的エッセイ集『谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて』などがある。
いくつかの作品は、信長貴富氏らの作曲により、合唱曲にもなっている。
また、中学校の教科書の巻頭詩にも作品が選ばれている。

 

関連書籍

 

2021.01.31

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