連載|月曜日のショートショート|第21話『コインランドリー』

連載
2021/01/18

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

第21話 コインランドリー

 

 

 
子どもの頃から、不都合があると何かのせいにしてしまう癖があった。
 
 
〝遅刻したのは、突然の雨のせいだ〟
 
〝フラれたのは、お店の料理が不味かったせいだ〟
 
〝不合格だったのは試験会場の暖房の風が、僕に直接当たりすぎて集中出来なかったせいだ〟
 
 
そんな風に思いを巡らせてイライラするのだが、途方もなくなって結局、宇宙のせいに行き着いてしまう。
 
 
暖房の風のせいで集中出来なかった
暖房の風が直接あたる教室の構造が悪かった
教室が寒いのが悪い
冬が寒いのが悪い
寒いということを感じてしまう人間の体質が悪い
そもそも人間として生まれなければ良かった
人間が生まれたのは地球が出来たせいだ
地球が出来たのは誰のせいだ
うっ、宇宙のせいだ!
 
 
という風にだ。
 
 
何とも生きづらい性格だと自分でも思う。
 
 
今日も上手くいかなかった1日を憂いながら、コインランドリーで乾燥機がぐるぐる回るのを、ぼんやり眺めていた。
 
 
後ろで「ちっ」と舌打ちが聞こえた。
 
ふりかえると、野球チームのキャップを被ったスウェット姿のおっさんが
 
「おいおい、セーター縮まったじゃねーかよ」
 
と大きめの独り言を放った。
 
そして、そのまま、その矛先は僕へと向けられた。
 
 
「おい!そこの若いの!お前がそこに座ってたせいで、セーター縮まったじゃねーか!」
と顔を真っ赤にして怒った。
 
全く意味が分からなかった。
 
座っているせい?
 
「俺はいつもAの乾燥機を使ってんだ。けど仕方なく今日はこっちのDの乾燥機を使った。なんで、そうなったか分かるか!?
お前がそこに座って邪魔だったからAが使えなかったんだろが!Aを使ってたらこんなことにならない!お前のせいじゃ!」
 
野球チームのマスコットだけが、キャップの中で笑っている。
 
「いやいや、お言葉ですけど、AだろうがDだろうが、乾燥機にセーター入れたら縮みますよ」
 
「はあ!なんだそれ!そんなわけねーだろ!てめー、人のせいにすんじゃねーぞ!」
 
 
おっさんは縮まった小さな真っ赤なセーターを片手に持ちながら、狭いコインランドリーの室内で僕を追いかけた。
 
僕は慌てて座っていた丸椅子を蹴り倒して、逃げまわる。
 
「てめえ!お気に入りだったんだぞ、これ!絶対逃がさねー!」
 
おっさんは、キャップをグインと後ろ被りにして自分にスイッチを入れると、室内とは思えぬスピードで走って向かってきた。
 
行き先を失った僕はDの乾燥機の扉をパカっと開けて、その中へと逃げ込む。
 
乾燥機の中へ入ると、みるみる僕の身体は縮まった。
 
 
あれっ。本当にこの乾燥機、すごく縮むじゃん。
 
僕はおっさんから逃げるため、乾燥機の中を全力で走るしかなかった。
 
しかし、走っても走ってもハムスターが遊ぶ、あの回転遊具みたいに状況は一向に進まない。
 
 
おっさんんも「やー!」と気合を入れて乾燥機の中へ入ってきた。
 
僕も走って、おっさんも走って、乾燥機の中はぐるぐるぐるぐる回転した。
 
回転速度が高まったせいで、外から見たら「使用中」なんだろうなと錯覚するくらいの速さになった時、おっさんがとうとう躓いて、ぐるんぐるんと回転してそのまま洗濯物になってしまった。
 
 
おっさんは洗濯物になった。
 
躓いたら、洗濯物になるのだろうか。
 
それは嫌だ。
 
しかし、慌てて急に止まれば、回転のせいで身体のバランスを崩し、躓いてしまうだろう。
 
だから、僕は走り続けたまま少しずつ速度を落として、この回転が収まるのを待つことにした。
 
 
速度を落としていく作業は少しだけ僕を冷静にさせ、ジョギングくらいのスピード感になった時、顔にフワッと触れたものがあった。
 
反射的にそれを掴むとタオルケット。
 
掴んだ瞬間、懐かしさが僕の脳みそに直撃した。
 
 
タオルケットには、下手くそな、ひらがなだけの字で僕の名前。
 
僕が子どもの頃使っていたタオルケットだった。
 
そして、あの日の、おねしょ付き。
 
 
あの日、初めて僕はファミレスでお母さんとクリームソーダを飲んだ。
 
大好きだったメロンソーダにアイスクリームがのっているなんて、僕にとって大事件だった。
 
アイスクリームが溶けて、緑色の中に混ざっていく。
 
ソーダを飲もうか、アイスを食べようか迷いながら、それでもアイスが溶けてしまうのが嫌で慌ててソーダを飲んだ。
 
アイスのひょっこりひょうたん島は、緑の海水をたくさん吸って僕を急かしていた。
 
お母さんは急いで飲むとお腹壊すよとか、おしっこいきたくなるよなんて忠告していたけれど、僕はそれを無視してクリームソーダをガブ飲みした。
 
そして、その日のお昼寝で、豪快に布団におねしょをしたのだ。
 
 
「お母さんとクリームソーダなんて飲んだから、おねしょしちゃったんだ!!」
 
そんなセリフ、子どもながらに可笑しいと思ったけれど、自分を守る最大限の言葉を吐いた。
 
 
そうやって自分はずっと誰かのせいにして生きてきたのだろう。
 
自分が思うように進んで間違えたら、自分の責任になるのが怖くて、アドバイスをくれた人や助けてくれた人に対して責任を押し付ける
 
結局、自分で決めていないから、ずっと文句を言ってしまうのだ。
 
 
走りながら、思い出が、回転してきた。
 
あれは、お母さんのおかげだった。
 
お母さんのおかげで、あんなにクリームソーダは美味かった。
 
お母さんと飲んだから美味かった。
 
ファミレスの窓から差し込んでいた太陽の光、無垢な子どもの目を全身で受け止めてくれる店員の笑顔。
 
あの日の思い出が僕の心を励ましていた。
 
おねしょの〝おかげ〟だ。
 
そして、おっさんも誰かの思い出だったのだ。
 
 
誰かのおかげ。
 
そんな柔軟剤を投下された、この空間はゆっくりゆっくり止まった。
 
 
扉を開けると、コインランドリーの出入り口から遠くに夕焼けが見える。
 
夕焼けのオレンジはいつも曖昧で、いつもその曖昧さに救われたかもしれなかった。
 
 
夕焼けに向かって帰る途中「あっ」と思い出して後ろを振り返ると、おっさんがいた。
 
おっさんの近くには、同じく野球チームのキャップを被った子どもがいて
 
「あっ!ちょうど良いサイズになってる!」
 
と言って真っ赤なセーターに腕を通していた。
 
「おっ、そうかそうか、そりゃあ良かった」
 
「お父さんのおかげだね!」
 
 
子どものセーターは、ぴちぴちに笑っていた。

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2021.01.18

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