連載|月曜日のショートショート|第19話『自分探しマン』

連載
2020/12/28

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

第19話 自分探しマン

 

自分探しの旅に出た。

沖縄で探した自分を脇に抱えて持って帰ってきたが、全く別人みたいな顔の自分だった。

 

「誰やねん。こいつ」

関西人でもないのに、関西弁を模倣した。

 

沖縄で探した自分は、ずっと伏し目がちで、マネキンみたいに無機質だ。

 

しばらくすると全く知らない男が、僕の顔をキラキラした目で見つめ近づいてきた。

 

ジョンレノンみたいな長髪と髭だらけの丸眼鏡。

麻のゆるっとしたTシャツ。

個性の大量生産のような風貌である。

 

男は僕を嬉しそうに抱えて、そのまま走り出してしまった。

 

沖縄で探したマネキンみたいな自分は置いてけぼり。

走り去る僕らを悲しそうに見つめていた。

 

このジョンレノン男は、僕を見つけて〝自分〟だと勘違いしたようだ。

 

人生は結局、模倣の連続なのかもしれない。

誰かに似ないように生きようとしても、どこかの誰かの人生が羨ましくて、それに沿ってしまう。

もしかしたら〝生きる〟という行為さえも、誰かの模倣なのかもしれなかった。

ならば良いではないか。

本当の自分は、こうして悩みに打ち勝とうと、もがいている自分だ。

 

そんなことを男に抱えられながら思った。

そうしたら精神の安定を保てた気がした。

 

「すんません。あなたが抱えているの自分じゃなくて僕ですよ!他人ですよ!その年齢で自分探しとかダサいやん」

 

ジョンレノン男が立ち止まった。

 

「あらま。ほんとだ。あちゃー。でもな、一つ言わせてくれ。自分探しをしてる奴を馬鹿にする風潮あるよな?

でも、それは良くない。いわゆる自分探しをしてる奴は頑張って成長しようとしている奴だろ?現状維持は劣化の第一歩!だから、頑張ってる奴を馬鹿にするのは、おれ、嫌いやなあ」

 

「は? なんで、最後、関西弁なんだよ」

「お前の模倣や」

 

難しい議論はやめにして、もう僕は家に帰りたいと思った。

 

ただ寝たい。

昼頃起きて、布団の中でずっとぬくぬくしていたい。

 

窓の外で停留する幼稚園バスの音を聞きながら子ども時代に思いを馳せ、本日最初の食事がポテトチップスでも怒られない人生が良い!

 

けれど、この間、僕はみんなに言ってしまったのだ。

 

「ミュージシャン目指すために、会社辞めます!」

 

言った瞬間すぐに分かった。

あれ、なんか違うかも。

ずっと心の中で思っていたことを口にしてみたら、自分の人生のスケールと全然合っていなくて、びっくりした。

 

本当の自分って何だろう。

 

えっ、ちょっと待って、僕の1番の欲望って

「寝たい」

なの?

 

情けなくて笑えてきた。

 

「おい、何でお前、いま笑ってる?」

「えっ、自分の1番の理想が〝寝たい〟だったからだよ。みんなにはミュージシャン!なんて言っちゃったけど」

「寝たいのか。ええやん。じゃあ、どこで寝たいん?」

「家」

「ほんとに家でええんか?例えば海辺で寝たことあるか?」

「ない」

「じゃあ一緒に寝に行こう。このまま抱えて行ったる」

「えー、家が1番よいよ」

「そんなのわからんやんけ!なんで、海辺で寝たことないやつが、海辺で寝たときのことがわかんねん!それが1番やりたいことかもしれないのに!」

 

それは一理ある。

 

「海辺で寝た瞬間にな、初めて、今の自分から自分になる瞬間が体験できるかもしれへんよな!」

 

ジョンレノン男は嬉しそうだ。

この男の言う通りなら、海辺に自分は転がっていないだろう。

今の自分から自分になるのだから。

 

「すんません。そしたら、僕を1回、腕からおろしてもらって良いですか」

「おう。ええで。自分かと思って抱えてみたけど、悩み苦しむお前さんやったわ。でも、おかげで俺も自分の言葉、整理出来たわ」

「僕を通して自分になったってことですか」

「誰かと一緒ににいる時に、本当の自分になることもあるんやな」

 

僕らは海辺に向かって歩いた。

歩いたら何時間かかるだろう。

分からない。分からないけれど、その先に自分がいるかもしれないから僕らは歩くのだろう。

 

「いいんやで、夢なんて小さくて」

「ふふふ、なんか、僕、いま、気分良いです。歌おうぜジョンレノンさん」

「だれがジョンレノンじゃあ!俺は俺や!」

 

それでは、世界の皆さん聞いてください。

The BeatlesでLET IT BE

 

「はははっベタだね〜」

笑った。

なすがままに。

 

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.12.28

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