連載|月曜日のショートショート|第17話『泥がある』

連載
2020/12/14

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

第17話 泥がある

 

真夜中、牛乳を注ぐ。

台所の電気を、つけないままだったから、

暗闇の中で牛乳の白が良く映えるだろうと思った。

けれど、牛乳パックから出てきたのはドロっとした泥だった。

 

泥。

泥?

ああ。

泥だった。

 

最近、国会で「賞味期限改正法」が可決され、賞味期限の境目をハッキリさせようということになった。

〝賞味期限が本当に切れる瞬間が分からない!!〟

〝結局、賞味期限が切れたものって食べられるの??〟

などというクレームがネットを中心に賑わったためだ。

 

例えば、目の前にある、この牛乳の賞味期限は12月13日。

今の時刻は12月14日午前2時。

とすると、既にこの牛乳の賞味期限は2時間切れている。

 

昔だったら「まぁ、いいか、ちょっとくらい」と飲むことが出来た。

しかし、その曖昧さが不安になった私たちは、それを許せなくなった。

結局、賞味期限が切れた食材は泥に変貌することになったのだ。

 

泥になったら、もう捨てるしかない。

それから街中で、所々に泥が出現するようになった。

 

道端や、公園、コンビニの裏。

生ゴミのゴミ箱。

川沿い。

 

〝賞味期限が切れても食べられるだろ!〟

〝もったいない!〟

という声も聞こえたが、

毎年問題になっていたクリスマスケーキや恵方巻きなどの、食材大量廃棄の問題は、この〝泥化〟によってすべて解決された。

 

だって、結局、泥になるんだもんよ。

俺たちゃ、捨てなくて良いんだ。

 

そこかしこに投棄しておけば良くなった。

良く言えば、自然に還す感覚だった。

 

しかし、今度は泥の投棄が問題になった。

酔っ払いの吐瀉物かと思ったら、泥だった。なんてことも良く起きた。

 

今度は泥を、どこにやるのか議論された。

その問題がネットを賑わせるようになると、我が国の総理大臣が、頬をポリポリ掻きながら会見でこう言った。

「うーん、そうだなぁ。泥だんごを作る保育園や幼稚園の子ども達にプレゼントしたらどうかなー??」

 

まさか。

結局そうなった。

 

街に溢れた泥は、トラックで運び出され、全国の保育園や幼稚園へ。

 

「え?廃棄物を子ども達にあげるの?」

と発言出来る大人は、もう、この国にはいなかった。

大人達が作った負の遺産を〝子ども達に受け継いでいってしまう〟この構図は永遠に終わりそうもなかった。

 

次の日、私が勤める保育園にも、国の役人と業者がやってきて、泥を園庭に搬入した。

 

園庭には泥の積み上がった小さな山が

じゅりっ、、、

と出来上がった。

 

国の役人と、業者は

「どうぞー!みんなー!これで、泥だんごを作って遊んでねー!」

と、卑しく笑った。

 

しかし、子ども達は誰一人として、泥の小山に目を向けなかった。

 

泥がある。

 

子ども達は泥だんごを作ろうとはしなかった。

 

泥がある。

 

「ほら、ほら、こんなにたくさんの泥があるよー!泥だんご作ってー!」

 

泥がある。

 

国の役人は、見様見真似で泥だんごを作ってみせようとするが、うまく出来ない。

 

「ほら!ほら!子ども達!泥だんご作ってくれよ!おいい!」

 

泥がある。

 

雨が降り出す。

 

泥がある。

 

雨が降り出す。

 

園庭にある砂場が

雨で濡れる。

 

雨が降る、雨が降る。

 

すると、どうだろう。

 

砂場に泥が出来る。

 

本当の泥が出来る。

 

本当に本当に泥が出来る。

 

それから、シャワーのような雨が

園庭に降り注ぐ。

 

そろそろ虹が出来るだろう。

 

それを合図に、

子ども達は一斉に砂場へ駆け出した。

 

「わあー!雨だ〜!」

雨でぐちゃぐちゃになった砂場で出来た正真正銘の泥は、子ども達の手にぴったり馴染んだ。

 

「せんせー!みてー!キレイにできたー!」

雨で濡れながら子ども達が泥だんごを作っている。

 

「晴れたら白砂かけて砂糖みたいにしようね!」

笑っている。

 

園庭の真ん中にある嘘っぱちの泥の小山は、

雨で崩れることもなく、そこに佇むだけ。

 

ガキ大将のダイゴが、片手で小山から泥を掴み取り、国の役人にベチャっと投げつけた。

 

役人は

「あっ」

と叫んで、スーツのまま尻餅をついた。

 

ダイゴは

「どろばくだん」

と言って、ギャハハと笑った。

 

子どもが私の方に向かって、ゆっくりゆっくり歩きながら、シャベルにのせた泥を大事そうに持ってきた。

 

「せんせー!みてー!」

「なにー?かのんちゃん」

「はい!あげる!ケーキだよ!」

「嬉しい!これは、どんなケーキ??」

 

かのんちゃんが作ってくれたケーキが、確かにそこにはあった。

 

「うーんとねぇ、100かいだてのケーキ!」

「わー!すごーい!」

 

私は口を大きくパクパクさせて

「美味しいねぇ」

と笑った。

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.12.14

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