月曜日のショートショート【16】『あのクラスで、あんたがどう振る舞おうがガラパゴスの生き物には関係ナッシング!』

連載
2020/12/07

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

第16話 あのクラスで、あんたがどう振る舞おうがガラパゴスの生き物には関係ナッシング!

 

 

 

水溜りに小石を投げ入れると
小さな波紋が出来た。

 

水の上の花火のようだった。

 

私はそれが嬉しくて、
何度も何度も小石を投げ入れた。

 

波紋は広がり、
この夏を惜しむように、爆ぜる。

 

この行為が楽しくなった私は小石を投げ続けた。

すると、とうとう水溜りは石で埋まってしまい、石の連続は水上に出来た鬼ヶ島のようになった。

 

しばらくこの光景を、ぼんやり眺めていた。

 

退屈だった私は頭の中で小さな鬼を想像で誕生させ、先の尖った石の先端に座らせた。

 

鬼は座りづらそうにしながら、鬼ヶ島全体を見つめている。

 

これから桃太郎が来るのを知っているのだろうか?

 

「おーい、のんびりしてると、桃太郎にやられちゃうよー」と

アドバイスを送った。

 

すると鬼は

「だれじゃあ!ももたろうって!名前のセンスなさすぎ!」

と笑った。

 

案外、歯並びが良いのだなと思った。

 

 

鬼の佇む石の隣に、もう一つ先端の尖った石がある。

 

その石に、シャーペンの芯みたいな態度をしたトンボが

スンッ…。

と、とまった。

 

トンボがシャーペンの芯だったら嫌だ。

シャーペンの芯は、面倒くさいのだ。

 

例えば友達に

「シャー芯、貸して〜」

とせがまれた時に私はきっと

 

「えっ、貸すの?あげた方が良くない?私、今使ってるシャーペンの芯、2Bなのよね。でも、あんたが使ってるのHBじゃん?うん、うん、そう。いや、いつも私、見てるから知ってんのよ。でね、例えば急にあんたの気が向いた時に、あんたのタイミングで、あっ、この間のシャー芯返す〜みたいに言ってこられると、私は自分の2Bのシャーペンの芯のケースに1本だけHBを入れなくちゃいけなくなる。それが嫌なのよ。なんか、毎回使おうとするたびにロシアンルーレットっていうのかな?えーっ、いつHBの芯出てくるんだろー。って考えなきゃいけないじゃん?ほぼ毎回ね。で、いよいよHBに巡り合った時に、あっ、これだ。って気づいて、あんたのことを一瞬思い出すのよ。それ、嫌じゃん?なんか、あいつ、そうやって都合の良い時だけ声かけてくるよなーって思い出すの。普段は私たちみたいなタイプの人間を平凡な表現で〝クラスの2軍〟みたいに言ってくるくせに、テスト前とか、受験とか、就職活動の時だけ頼ってくんのよな。案外、そういうの私たち側の人間ってわかってるよ?って言いたい。なんか教室の後ろで大声でお笑い芸人さんのモノマネしてるけどさ。あれが、いちばん寒いのよ。あんたのギャグじゃないからね。あんたが調子こいて、一生懸命一発ギャグしてる向こう側で佐伯さん?ああ、まあ、うちのクラスでいうとこのボス?の目を気にしてやってるの凄い分かるんよ。凄いヒヤヒヤするのね。なんか、私がツカツカ近寄って「おばあちゃんが作ってくれた、けんちん汁美味かったなあ!今のあんた見たらどう思うだろう!」って言ったら泣いちゃうんじゃないかなって思う。お弁当も無理矢理あのグループで食べることないんじゃん?なぁ、あんたいつも、みんなの食べるペース気にしてるじゃん。おっそいじゃん、あいつら。べちゃくちゃべちゃくちゃ喋ってさ。美味しいのご飯?それ。多分、お弁当作ってくれた人見たら泣くね。多分泣くね。だったらさ、私と一瞬にトイレで食べよーよ。まあー、無理か、そりゃ。あんた自意識高そうだもん。だったら早退するフリして公園で食った方がマシよね。ほら、ほら!ね!?こんな感じであんたのこと思い出さなきゃいけないのよ?でも、それってなんか違うのよ。例えばこれが3組の溝内くんとかだったら良いんだけどね。うん。あの人、素敵。絶対、みんなと一緒の髪型とか行動しないじゃん?嫌味がないのよ〜。前髪重めの髪型とかしないし。まぁいいや。それでね、そのまま気づかずに使っていて、あとあとノートを見直した時に、あれ?なんか大化の改新のくだりのページだけ、字薄いなーってなるじゃん?そう。HBだし。そうすると、これをノートチェックで見た先生は、あれ?あいつ大化の改新の授業だけ、やる気なかったのかなあ、えーと、この授業の時は6月かー。なるほどなるほど、あいつ、梅雨とかで体調悪くなるタイプなのか。よし。嫌なことあったら何でも聞いてね!って後で言っておこーって先生に思われんのよ!こわくない?それ。私たちみたいな人間は、成績大事なの!なーんも心配されずに「うん、まあ、佐藤は問題ないなあ、指定校推薦で啓明大学だっけ?大丈夫でしょ。あああああっ内申書書きやす!」くらいに思われてないと私は死ぬの!あんたには分からないわよ!あんたが成績悪いの知ってるけど、あんたみたいな人種はそれでも「ああ佐伯のいた学年かあー!面白い奴だったなー、なんか、あいつらとか起業とかしそうだよな?」とか肯定されるじゃん?「勉強ダメだったけど面白いやつだったなー!」とか、なんか、ほんとズルい評価受けるじゃん!なんなんそれ!めっちゃ欲しい!その眼差し!もお、ぶっちゃっけあんたみたいな人種がきっと社会でもノンストレスで生きてくんだろ!!ああん!?あんたが思ってる以上の社会の評価だかんね!悔しいいい!でも、そんなこと、ずっとずっと考えちゃうくらい、あんたのこと人間っぽくて好きかもおおおっ!」

 

って言わなくちゃいけなくなる。

 

実に面倒くさい。

 

それで、結局、居場所の分からなくなったシャーペンの芯は、今こうして、ここでトンボになっている。

 

シャーペンの芯だからって簡単にあげると思わないで欲しいのよね。

 

ふぅ。

 

あの1本1本が自分の髪の毛のように大切なの。

 

 

そんな風に思案していると

 

「今、お前、なんか、すごい、変態っぽい顔してたぞ」

と心配そうに鬼に見つめられた。

 

私はそれを聞いて、ちょっと、この小鬼ちゃんに悪戯してやりたくなった。

 

鬼ヶ島の中央にある、とっても眠りやすそうな平べったい石を

 

ぬいっ

 

と取り上げる。

 

「おーい!おまえー!やめろよー!」

 

その鬼の声がなんだか可愛くて、次々と石を

 

ぬいっ

 

ぬいっ

 

と取り上げる。

 

「ふざけるなー!お前!俺の家をどうしてくれるんだー」

 

鬼がジタバタする。

 

笑った。

 

「なーに、言ってんの!あんた!

元はと言えば私が作った鬼ヶ島だっつーの!そもそもあんた自身もね」

 

 

笑った。

 

久しぶりに笑った。

 

自分の意思で、ちゃんと笑った。

 

騒ぎ立てる鬼をひょいと捕まえて肩に乗せる。

 

「ちょっと見てて!今からすごいものを見せてあげるわ!」

 

鬼ヶ島が無くなったことで、再び出現した水溜り。

 

水溜りに揺らめく私の顔。

 

 

それーっ!

 

取り上げた鬼ヶ島の残骸を宙に投げる。

重力に従って、一斉に水溜りに向かって落ちる石たち。

 

まるで、隕石。

 

地球の破滅!

 

水溜りに映るぐちゃぐちゃの私の顔。

 

そして、波紋。

 

 

てか、これホントに私?

違うんじゃね?

 

鬼に向かって叫ぶ

 

「ねーっ!花火みたいじゃない!?これええ!ねーっ!?みてーっ!

もっと見てー!!!

はやくしないと消えちゃうよー!!わたしー!」

 

私の顔が爆発!爆発!

 

爆発花火。

 

「なに言ってんだあ!
お前!なんか、こわっ!!
まるで鬼だな!」

「あんたに言われたくないわあああ!!」

 

 

みんなが思う私。

 

みんなに求められてる私。

 

さようなら。

 

さよならじゃなくて、

さようなら。

 

 

 

トンボのことは、もうすっかり忘れていた。

 

まるで、

誰にあげても良いシャーペンの芯のようだった。

 

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.12.07

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