月曜日のショートショート【15】『きよしこのよる』

連載
2020/11/30

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

第15話 きよしこのよる

 

 

 

ババババババババババ

ババババババババババ

ババババババババババ

 

バイクのエンジン音が団地に鳴り響いた。

バイクと言っても正しいバイクではなく、背もたれがバッタのお腹みたいになっていて、ハンドルが触覚みたいにぐるんと曲がっている。

ああ暴走族のバイク音だ。

 

でもそれが集団が織りなす音ではないことが分かると、多分この音はケンジだろうなとすぐに分かった。

 

「ゆうやー!ゆうやー!」

部屋の外から、俺の名前を呼ぶ声がして窓を開けると、そこにはやっぱりケンジのバイクがあった。

 

「ちょっとペン買ってくるわ」

母さんに嘘をついて、1階の団地の駐車場に降りた。

 

わざとかったるそうに歩く俺は、

「何時だと思ってんだよ、うるせーな」

と言いながら

内心、スキップしたいくらいに嬉しい。

 

時代遅れの剃り込みに、長い襟足。

「爆烈兄弟」と描かれた特攻服を着て笑っているケンジが駐車場にいる。

久しぶりだった。

 

「おっ!小説家の先生のお出ましじゃん」

 

俺はケンジと一緒にバイクを走らせていた時期があった。

暴走族なんて言うには小さすぎる存在だった。

何せ俺たちは2人だけだったから。

 

暴走族を名乗る少年達は走る理由が欲しい。

単車が好きだとか、走る時の爽快感が良いなど適当な理由で良かった。

 

けれど、俺たちは違った。

単純に目立ちたかったのだ。

ただ、青春のベクトルがバイクの爆走だっただけだった。

 

喧嘩がしたかったわけじゃない。

走りたかったわけじゃない。

ただ毎日の鬱憤を叫んでいるうちに、それを最も大きな声で、音で、体現してくれるのがバイクだった。

あーーーーー!!と叫ぶ俺たちと同じく張り合えるのは、爆音で鳴けるバイクくらいだったのだ。

 

けれど、2人の暴走族が終わったのは俺がきっかけだった。

〝元・暴走族、19歳の奇才現る!〟

俺の小説デビュー作の帯には、その文字が大きく載った。

昔から小説のような文章を書き溜めていた。

誰に見せるわけでもなく、ただ書いていた。

 

ある時それをケンジに見せると

「これ、ずっと引き出しの中に閉まってたら、えっち本と一緒じゃん」

と言われ、その物語を出版社の新人賞に応募したのだ。

そこから未来が変わった。

 

特に俺がバイクを走らせていることや、暴走族であることが世間は気に入ったみたいで、出版された本の宣材写真も睨みをきかせたものにさせられた。

 

「いいねーいいねーいかついねー!」

カメラマンはきっと俺を馬鹿にしているだろうと思った。

その目はカメラマンを睨んだものになった。

 

題名よりも、名前よりも、内容よりも、元・暴走族が大切なようだった。

SNSでもその文字が踊った。俺は小説を読んでない人からも、もてはやされ小説家の仲間入りをしたのだ。

 

「ゆうや、たまには走りたくなんねーの?」

「なるなる。でも、腕、怪我したら困るから、もう乗るなって言われてる」

「ぶはははは。なんだ、それ。じゃあ、俺の後ろ乗れよ」

「事故るなよ〜」

 

ケンジのバイクの後ろにまたがり、ケンジの腰に少し触れた。

でも、ケンジの感触はボンヤリしたままだ。

 

団地の駐車場を抜けて、いつもの国道に出る。

 

ババババババババババ

ブンブンブブブブンブン

ババババババババババ

ブンブンブンブブブブブブ

 

バイクのエンジン音を聞いて、ケンジが上機嫌なのが分かった。

この爆音を鳴らすだけで、昔は部屋から俺たちを覗く姿があった。

けれど、今は誰も見ない。

まるで、俺たちは存在しないかのようだった。

 

国道を走る。

「おっし!最近、よく走るルートで良いか??」

ケンジがバイクの速度を上げる。

 

誰もいない国道を滑走路みたいにして、

ぐわんとバイクは空中に浮いた。

 

まるで、空中に道が出来たかのように走った。

ケンジのバイクは空を飛んだ。

 

「うおおお!E.T.みたいじゃん」

俺は興奮して街を見下ろす。

 

住んでいる団地も、ケンジとよくたむろしたコンビニも、公園も、そして憧れたあの街が向こう側にはあった。

 

よく見ると、公園では中学時代の俺たちが野球をしていた。

駄菓子屋では、くじの当たりをひいた小学生のケンジが喜んでいた。

この街には、ケンジとの思い出が今も全部ずっと同時刻で生きていた。

 

ふと、聞いた。

「ケンジ、なんでお前死んだの?」

夜を切り裂くように走る俺たち。

たまに星座と星座の間を走り抜ける時、鉄琴のような音がするのだか、その質問をした時は寂しくファみたいな音が空中に冷たく残った。

 

「じゃあ、お前は、なんで小説書いてんの?」

「分からない。」

「たぶん、きっと、その答えと一緒な気がするんだよな。俺の死も。意味とかねぇよ。

みんな、理由や意味を求めすぎなんだよ。なんで?なんで?って自分が安心したいだけだろ。それって。

ただ、そうだっただけだよ」

 

オリオン座に添いながら走る。

地上では中学生の俺たちが自転車に乗ってはしゃいでいる。

日々はずっとそこに在った。

 

ケンジのバイクがオリオン座を通過した時に鉄琴が

と夜空に鳴った。

 

近くの星を見つけたケンジはまた星座を通過する。

ミー

ミー

「ケンジ、分かってやってんの?」

シー

ソー

「うん」

 

夜空のバイクからエンジン音は鳴らない。

鳴り響くのは鉄琴で奏でた

〝きよしこのよる〟だ。

 

「らしくねーな、良い音だけど」

「お前の小説はもう読めないけどな、けど、暴走族のバイクみたいな音した作品は作るなよ。俺をみろ!俺をみろ!って自己満足みたいな作品は誰も救えねぇよ」

「ばーか、じゃあお前のこの鉄琴も自己満足だろ」

「ちがう。

この音鳴らして

俺はお前に話しかけていくつもり

これからもずっと」

「はーん、じゃあ俺もお前のために小説書くわ」

「それは、きっと名作だわ、いや、冗談抜きでね」

 

大衆を意識した作品より、たった1人のために作品を作り続けるのも良いかもしれなかった。

 

深夜0時。

不器用な、きよしこのよるが街を包んだ日。

俺は一生、ケンジのために小説を書くと決めた。

その瞬間どんな時よりも、俺はケンジの近くにいると思う。

 

ミー

ミー

ババババババババババ

 

街では、そんなことはお構いなしに、

誰かの日々が淡々と在った。

 

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.11.30

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