月曜日のショートショート【13】『病名はアヒージョ』

連載
2020/11/09

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

第13話 病名はアヒージョ

 

 

 

雨。

だから、傘を持って街にでた。

 

小さい居酒屋に入って、少し安心してビールを飲む。

街を行き交う人が見える席に通されて、雨と人を見ていた。

 

雨は、ずっと景色を引っ掻いているようだった。

 

ざーっ、

ざーっ、

ざーっ、

って5本の指で一生懸命引っ掻いている。

 

そんなに、ずっと引っ掻いていたら痛いよ、

と思って僕の方が泣きそうだった。

 

その涙を足しにする?

そしたら傷は、ちょっと潤うだろう。

 

傘がある。

人がいる。

 

傘を持っている人は真顔で、

傘を持っていない人は笑っている人が多い。

 

どうにもならない状況を笑うしかないのだろう。

 

傘を持っていない人のもとに、同じく傘を持たない人が走ってきた。

そして、その人も笑っていた。

 

なんだ、

誰かが一緒にいたから笑っていたのか。

 

急にイライラした。

 

次は相合い傘が歩いてきた。

 

男の肩は随分濡れていて、

男の方が惚れているのだなと、すぐに分かった。

 

 

一週間前、

最近、元気がないね。と言われて医者を紹介された。

 

医者は阿呆みたいに

「なんでだろう、なんでだろう」って僕に聴診器を当てて、どこが悪いのだろうって探した。

 

でも、見つかるわけなかった。

どこが悪いとかじゃないんだ。

「ただ、いろいろ重なっているんだ」

 

そういえば友だちも、ずっと体調が悪かった。

原因不明だった。

 

だから僕は思い切って、

「君の病名分かるよ」

と言った。

 

友だちは目を輝かせて

「なに?」

って聞くから

 

僕は

「アヒージョだよ」

と言った。

 

「アヒージョ?」

「そう。アヒージョ。」

 

しばらく時が止まったが

「そうか…。うん、そうか!そうか、そうかアヒージョか!

僕の病名はアヒージョだったんだーー!」

って叫んで、少し元気になった。

 

病名はアヒージョ。

 

何を隠そうアヒージョはただの料理名だけれど、

その時、友だちを救うためだったら必要な嘘だったと思うし、

不明なものに名前をつけることで安心することもある。

 

だから正真正銘、

彼の病名はアヒージョで、

アヒージョはお酒と食べると非常に美味しいのだ。

 

嘘をついて良いのは誰に対して?

先生や先輩?

 

うん。

そこで繰り返される話が嘘だと感じたら。

 

けれど、やっぱり自分に嘘はつかない方が良いな。

嘘をついたら、景色を引っ掻きたくなるんだ。

 

そんな日が続いたら、

あはたの世界は、きっと雨。

あなたの爪は、ずっと痛い。

 

それで、

「たまには、雨の日も好きよ」

なんてビニール傘を持ったメリーポピンズが言うだろう。

 

そして、あなたの前で

「ごきげんいかが?」

なんて歌うかもしれない。

 

そしたら、ちょっと一緒に歌ってやってくれ。

ビニール傘のメリーポピンズが喜ぶから。

 

あなたが辛い時、

誰かに優しくすると、

あなた自身が救われることがあるんだ。

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.11.09

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