月曜日のショートショート【12】『チョコレイト』
連載
2020/11/02
この連載について
毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。
絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。
いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?
第12話 チョコレイト
「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!」
少し赤みがかった夕焼け空をバックに、
ジャンケンのチョキで勝った僕はそう言いながら、
チョキで勝てばチョコレート。
パーで勝てばパイナップル。
グーで勝てばグリコ。
その文字数に合わせて、
「ジャンケンポン!また勝った。
チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!」
みっちゃんとの距離が遠くなる。
「おーい。さっきから何でパーしか出さないのー?」
僕は続ける。
ジャンケンポン!
チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!
ジャンケンポン!
チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!
ジャンケンポン!
チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!
僕の身体は階段を昇っていけばいくほどに、
背中は曲がり、
涙はその皺を辿るせいで若かりし日のようには流れず、
みっちゃんは、ずっと手を振っていた。
バイバイ、バイバイ、って言って手を振っていた。
僕はその手のひらにピースして、
チョキだと言って勝ち続けた。
みっちゃんはその二本指にバイバイして、
パーだと言って負け続けた。
夕焼けに向かって咆哮する。
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!」
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!」
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!」
ふと、階段を30段くらい昇った時に思ったのだ。
結局、生きるとは何なのだろう。
僕は、何故か、みっちゃんに生かされているような気がしたのだ。
いいよ。いいよ。って言われながら。
そうやって負けてくれた
みっちゃんのことを忘れて、
僕は1人で生きてきたような態度を、
ずっと勝ち続けていくことが、
結局、僕はジャンケンをすることを止められずに、
口の中ではチョコレートの銀紙を噛んだような味が充満している。
苦かった。
振り向くと
「グリコ、グリコ。」
と言いながら階段を降りていく
みっちゃんがいて、
頂上には僕のお墓が静かに佇んでいた。
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作者プロフィール
マサクニ
絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。
Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni
Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/
● マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。
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