月曜日のショートショート【10】『田園』

連載
2020/10/19

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

第10話 田園

 

 

 

 

 

出張先に向かう新幹線。これから大切な取引先とのあれこれで、気分は憂鬱だった。読書も出来なかった。

新幹線の中から窓の外をぼんやり眺めていると、東京がゆっくりフェードアウトしながら無くなっていき、田園風景が広がった。

何もなくて見渡せる分、遠くにあるはずの山々もしっかり見てとれた。

 

ふと、よく見ると、あぜ道をゆっくりゆっくり走る軽トラックがあった。

収穫物を傷つけないようにするため、速度を落として走っているのだろうか。

 

その軽トラックをじっと見ていると、荷台には子ども2人が乗っていた。

ゆっくりゆっくり走る軽トラック。

子どもたちの横顔。

 

すると、びっくりした。

荷台に乗っているのは子どもの頃の僕だった。

そういえば、おじいちゃんの軽トラックの荷台に乗って、走ってもらうのが大好きだったことを思い出した。

 

思わず「ああ」と声が出た。

おじいちゃんにも、

子どもの頃の風景にも、

会いたくなった。

 

僕は意識を集中させて軽トラックの荷台に乗ることに成功した。

 

ガタガタ揺れる軽トラック。

無造作に置かれた工具類も荷台の上でガタガタ音を立てている。

しっかり座ると、お尻が痛くなるので、しゃがんだ状態で僕はいる。

 

凄い、あの頃と一緒だ。

隣には子どもの頃の妹もいた。

懐かしい。

 

「お兄ちゃん、しっかりこのヒモにつかまらなきゃ駄目だよ」

と言った。

そこには、おじいちゃんが作った、つかむ用の情けないヒモがあった。

 

おじいちゃんが運転席から後ろを振り返って

「しっかり、つかまってろよー」

と言った。

 

僕らはギュッとつかんでいる。

僕らはずっと離さなかった。

風が、空が、太陽が僕らのことを優しく包んだ。

 

家に帰ったら、お母さんが僕らの冒険を聞いてくれるだろう。

家に帰ったら、おばあちゃんが

「いやだよー、おじいさんたら、またどこへ連れて行ったん!」

と、おじいちゃんのことを笑って怒るだろう。

僕はそんな当たり前に安心しきっていて、そして、ずっと肯定されて生きてきたことを知った。

 

隣を見ると、妹が僕のマネをして、しゃがんだ状態で景色を眺めている。

軽トラックが少し傾斜を下り始めたのと同時に、

妹の身体は制服姿になりOLみたいな格好になり、そしてとうとうウエディングドレスになった。

 

「あれ、わたし結婚してるんだけど!」

ウエディングドレスが風にはためいた。

そして、蒸気機関車の煙みたいにドレスの白がモクモク空に舞った。

 

「へえ!雲ってウエディングドレスだったんだなー」

と僕が言うと、妹は空を見ながら

「お兄ちゃんは変わらないねー」

と笑った。

 

妹は変わっていったけど、僕の身体は子どもの頃のままだった。

 

僕はもしかしたら、あの頃のまま、子どの頃のまま、何も変わっていないのかもしれない。

いや、何も変われていないのかもしれない。

 

景色の向こうで、新幹線が走っている。

一つ一つの窓に人がいる。

 

僕はその人たちに向かって大きく大きく手を振った。

がんばれー!がんばれー!と手を振った。

きっと、これから出張に向かう30代くらいのサラリーマンが、喜ぶと思って。

 

 

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.10.19

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