月曜日のショートショート【9】『分からないなら聞いて。』

連載
2020/10/12

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

 

「分からないなら聞いて。」

「その分からない所が、分からないんです。」

 

職場で、上司と新入社員によく見られる会話の一つだ。

僕にもそんな経験があった。

 

 

学生時代、サッカースタジアム設営のアルバイトをしていた時のこと。

 

その仕事はJリーグ公式戦の試合の準備、後片付をするもので、
サッカーゴールを運んだり、スポンサーの看板を運んだりする超肉体労働だった。

そのため、周りは僕より遥かに屈強な男達しかいなかった。

 

先輩からは

「なんで、ここに、ほっそい子鹿ちゃんが紛れ込んじゃったんだ?ベイビー。」

という目でいつも見られていた。

 

僕はJリーグという単語だけに惹かれて応募してしまったのだ。

彼らのTシャツの二の腕はパンパンで、僕のは、しなびたゴボウをぶら下げているようであって完全に場違いだった

 

ある日、今日はスポンサーが違うから。という理由で、いつもとは違う看板が届いた。

それが、恐ろしく重かった。

やっと、慣れてきたと思ったら、もうレベルアップを強いられたのだ。

 

二人一組で持つ。

先輩が僕の反対側で持ち、声をかけた。

 

「いくぞ!せーの!」

「はい!」

 

僕は先輩のかけ声に合わせて、力一杯持った。

全く上がらない。

 

いやいや、さすがにそれは無いだろ。と半笑いになりながら持つが上がらない。

全く上がらない!!!

 

痺れを切らした先輩が

「おいっ!分からないなら聞けよ!」

と怒鳴った。

 

いや、分からないというか、そもそもパワーが足りません!と思いながらも

「す、すみません!」が精一杯だった。

 

もうその時は意地になって、これ持ち上げて体ぶっ壊れてもいいわ。

この先輩の前で、おめおめ負ける方が何だか嫌だわ。と思い、

足をガタガタさせながら必死に持ち上げ、所定の場所まで運んだ。

 

僕は全身がコートに沈んでいく感覚を覚えた。

先輩は、沈んでいく僕に

「おい、まだあるぞ。」

と肩を叩いた。

 

けれども僕は限界だったので地面に沈んでいくしかなかった。

錯覚ではなかった。

 

どんどん僕が沈んでいってしまい、とうとう腰あたりまで地面に沈んでしまったので、
先輩は慌てて僕を引き上げようとした。

けれど、結局、地中奥底まで埋まってしまったので、姿は完全に見えなくなってしまった。

 

先輩はオロオロした足音をたてている。

他の先輩がやって来て

「おい、あの細い奴どうした?逃げたのか?」と聞いて

先輩は

「いや、分かんねえっす。」

と焦りながら言った。

 

「分からないなら聞いて!」

「分からないなら聞いて!」

と、地中から僕は連呼したが

先輩には、その分からない所が分からないでいた。

 

 

 

 

 

 

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作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.10.12

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