月曜日のショートショート【5】『終わらない 夏の終わりの 終わり』

連載
2020/09/14

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

第5話

 

 

ドンと太鼓。

その後は、ビーズのアクセサリーを「あっ」と床にぶちまけた様な音がした。

 

「花火だ。」

慌てて2人でベランダに出たが、目の前のマンションが邪魔をして、
死に際の蛍のような明かりが向こうで点滅しているだけであった。

 

花火は見えなかった。

 

「花火綺麗だなぁ。」

「ほんとだぁミッキーみたいな形してる。」

 

見えない花火を見てくれた君の声を聞いて泣きそうになった。

落ちそうになった心臓を君が両手で受け止めてくれたのだ。

 

 

今年の夏はどこへも行けなかった。

僕らが好きだった夏の一切は、延期や中止で無くなった。

友人達がバーベキューに誘ってくれたこともあったが、
卒業式出来なかった子どもたちがいるんだよ。と言って、君は頑なに誘いを断った。

そんな君が好きだったし
そんな君は浴衣が似合った。

 

「そういえば神社で祭りやってるってよ。」

味の死んだ缶ビールを飲みながら、嘘をついた。

君は笑って目を閉じる。

「ほんとだぁ、たこ焼き屋何軒あんねん。」

 

スピーカーから聴こえる、盆踊り。

町内会のテントの笑い声、じじいの赤い顔、赤い顔、赤い顔。

当たらないゲーム機が真ん中を陣取るくじびき。
の、おっちゃんのパンチパーマ。

積み上がった焼きそばと、蚊に刺されたヤンキー姉ちゃんの腕と蝶々のタトゥー。

 

「あぁ、チョコバナナ食べたーい。」

ボーっと鳴るエンジン音。

落書きせんべいの甘い匂い。

アスファルトに落ちたカキ氷のカップに行列を作る蟻達。

「タピオカ待ってる女子高生かよ。」

「つまんないこと言わないで。」

 

うっすら右目だけ開けた君と目が合う。

ここはベランダ夜7時。

君の瞳に夏があった。

 

隣の部屋の窓が閉まる音が聞こえて、夜空の花火も終わりを告げる。

無邪気な君は誰よりも素直で、この世界の全ての不幸を感受してしまいそうだ。

 

「綺麗だったぁ。」

見えない花火に拍手をしている君を見た。

なぜだろう

僕より先に死んでしまう気がした。

 

 

 

 

 

 

 

バックナンバー

記事一覧表示

 

 

作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

マサクニさんが詩と絵を担当した物語『f』の読み聞かせ動画。よろしければこちらもお楽しみください。

絵本の詳細はこちら

2020.09.14

pagetop

みらいパブリッシング

本でみらいを創る? みらいパブリッシング
〒166-0003東京都杉並区高円寺南4-26-12福丸ビル6階