月曜日のショートショート【1】『デッサン途中の街 』

連載
2020/08/17

この連載について

毎週月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第1話

 

 

 

板橋駅だっただろうか。

 

初老の紳士が、松葉杖をついて電車の中に入ってきた。

 

顔下半分が白髭に覆われ、涼しそうな麻のスーツを着ている。

 

 

 

ドスン。

 

 

 

紳士はため息をついて、僕の隣の席に座った。

 

 

しばらくすると、カバンの中から取り出したA4サイズのスケッチブックを膝に置き、パラパラとめくり始めた。

悪いとは思ったが、反射的にそのスケッチブックを覗いてしまう。

 

すると、そこには

鉛筆の黒だけで描かれた、家やビルの絵があった。

 

写真みたいだ。

すごい。この人、画家か?

 

そう思ったがパラパラめくるページの中には、部屋の見取り図、計算式や数字も織り交ぜて描かれており、この人は画家ではなく建築家だ。と確信し一人で興奮した。

 

その後、紳士は鉛筆を取り出し、電車内で新たにビルのデッサンを始めた。

 

描いたり消したりを何度も繰り返している。

 

僕は、その紙に描かれた絵の世界にどっぷりと浸かってしまい、ビルが完成するのを心待ちにした。

 

 

 

「次は新宿ー。」

というアナウンスが聞こえた。

 

 

新宿駅で降りる予定だった僕は慌てて席を立つ。

 

絵の完成を見たかった。そう思いながら

 降りる時に紳士の顔をチラッと見た。

 

少し目が合った。

すべて見透かされているようであった。

 

 

 

 

新宿駅に着くと、アスファルトから放たれる熱が空気中にこもり、人々は行き交い、やはりこの街は想像以上に暑かった。

 

見上げれば、ビルが所狭しと並んでいる。

 

しばらく歩いていると天気予報の通り雨がパラパラと降ってきた。

 

僕はその場で立ち止まり、カバンの中の折り畳み傘を探した。

体はもう濡れ始めているので、服や腕についた雨粒を払う。

 

 

 

あれ?

 

 

 

違和感に気づいた。

 

 

 

雨粒とは明らかに違う物体が、空から落ちてきているではないか。

 

 

雨と一緒に

黒い小さなゴミ。

 

 

落ちてくるその先の

空を見上げると

 

どこかで見たビルが、上層階から消え始めていた。

 

蜃気楼のようにゆっくり。時に荒々しく

 

 

 

僕は、体に付着した黒い物体をもう一度確認する。

 

 

まずい。

パラパラと落ちてくるのは消しゴムのカスだ。

 

 

 

 

消えゆく街の中で

ふと初老の紳士の目を思い出す。

 

思わずゾッとする。

 

 

この街も、紳士の作り物だったんだ。

 

 

 

 

薄暗くなった遠い空の方から

 

 

「次は新宿ー。」

 というアナウンスが聞こえる。

 

 

 

 

 

どうやら僕も、このまま消されてしまうみたいだ。 

 

 

 

 

 

 

作者プロフィール

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。
1986 年群馬県生まれ。B型。
幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。
SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。
自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717/

 

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2020.08.17

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