この連載について

こんにちは、みらいチャンネル編集長の笠原です。

個人的な話で申し訳ないのですが、わたしは最近、失恋したばかりです。

失恋してから、本をよく読むようになりました。

読まなくても、本のそばにいると落ち着きます。

この連載では、そんなわたしが実際に読んで、立ち直る手助けになったと感じる本を1冊ずつ紹介していきます。

 

 

 

 

今日おすすめする本

タイトル:『私の胸は小さすぎる』
著者:谷川 俊太郎
出版:角川学芸出版 /2010年

 

 

ある日曜日、どこにも自分の居場所がない気がして、上司にお願いして会社の鍵を借りました。

会社には本棚がたくさんあり小さな図書館のようになっているので、そこでゆっくり1日本を読ませてもらおうと思ったのです。

そのとき、このショッキングピンクの本を見つけました。

 

2010年に角川文芸出版社から発売された、谷川俊太郎さんの恋と愛にまつわる詩を集めた詩集です。

詩を選んだのは、中国出身の詩人で谷川さんの詩の中国語訳を手がけてきたティエン・ユアンさん。

 

谷川さんの詩を”訳す”という最強の読解を繰り返してきた人が選んだからなのか、

この詩集に載っているすべての詩が、わたしの心に刺さりました。

この詩の次に、この詩がくる。

その順番がすべて心地よいのです。

詩集は、誰が書くかと同じくらい、誰が選んで並べるかが大事なのだなと思い知りました。

 

詩と詩のあいだに、ティエン・ユアンさんから谷川さんへの恋にまつわる一問一答が挟まれているのも、この詩集の特徴です。

この内容も、平然と常識をひっくり返してくるものばかりで、詩と同じくらい破壊力があります。

全ページに必ずひとつかそれ以上、はっとする発見があり、ページをめくるたびに心臓がドキドキするので、

読み終えたあと、ひとつの恋をはじめから終わりまで体験したような、いい疲労感がありました。

 

 

この詩集のデザインも好きです。

詩集にショッキングピンクって、なかなか見ません。

最初は少しびっくりしましたが、読み終わる頃には、この本にはこの色がぴったりだ、いや、この色しかない、と思えてきます。

そういえば、まぶしい色を見てチカチカ目が眩む感じと、恋で心が動くときの感じは、似ているかもしれない。

この本をデザインした人は、きっと恋のときめきをちゃんと知っている人だ。

そんなふうに、勝手に色々想像しました。

 

読み終えて、わたしはこの本の制作に関わったすべての人のことを、会ったこともないのに好きになっていました。

企画を通してくれた人も、編集した人も、印刷した人も、みんな、わたしのためにありがとう!という感じです。

(だれもわたしのためにつくってないと思いますが)

残念ながらこの詩集、もう絶版になってしまっているのですが、中古で買えるので気になる人はぜひ。

 

 

・・・後日談・・・

 

後日、この本のデザインを担当した則武弥さんと話す機会があったので、「どうしてショッキングピンクにしたんですか?」と聞いてみました。

(出版社で働いていると、作り手にすぐ会えるからラッキーですね)

すると、「詩集って、特別で大切にしなければいけないものってイメージがあるでしょ。そのイメージからおろして、もっと身近なものにしたかったんだよね」という答えがかえってきました。

 

たしかにこの本は、飾っておかないで、生活の真っ只中に置いておきたくなるような本です。

情報紙で行きたいカフェを探すように、ここにある言葉をときどき取り出して、暮らしに役立てたい。

 

今、この本のショッキングピンクは、わたしの家のベッドの脇の本棚で毎日光っています。

 

 

・・・おまけ・・・

撮影で使わせてもらった喫茶店はこちらです。

窓際の席で池袋東口のロータリーを眺めながら読書するのはおすすめです。

タカセ 池袋本店
https://takase-yogashi.com/

 

 

 

プロフィール

 

みらいチャンネル編集長 笠原

フリーランスライター、ホテル勤務を経てみらいパブリッシングに。2020年からみらいチャンネルの初代編集長を務める。映画を観るのは苦手だけど本は好き。

笠原への励ましのお便りや、みらいチャンネルについてのご意見はこちらまで
webkikaku@miraipub.jp

 

イラスト提供:草成(くさなり)

島根県生まれ。絵本作家、イラストレーターとして活動している。
第2回絵本出版賞で2部門同時受賞を果たし、現在計3冊が発売されて人気を博している。

『植物界』大人向け絵本部門最優秀賞(ポエムピース)
『おすしときどきおに』審査員特別賞(みらいパブリッシング)
『ねことおばあさん』(みらいパブリッシング)