月曜日のショートショート 第34話『宇宙でスカートは揺れる』

連載
2021/06/28

この連載について

毎月2回、月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第34話 宇宙でスカートは揺れる

 

 

 

月を見て君を思い出すほどロマンチックではないけれど、

月を見て自分を思い出すことがある。

 

例えばそれは、

口内炎が出来た瞬間だったり

 

例えばそれは、

左目の痙攣の最中だったり

 

例えばそれは、

日曜日の夜だったりする。

 

君を思い出そうとする時、僕は君を思い出すということを意識しなければならない。

君を思い出すということをしないと、君を思い出すことが出来ないからだ。

 

昔からそうだった。

好きになった人ほど、愛している人ほど、離れている時に、顔が思い出せなくなる。

 

だから、

確かに出来ていたはずの頬のニキビを辿って、

あったはずのホクロを繋ぎ合わせて、

輪郭をつくる。

 

それで、ようやく

 

ああ

 

こんな顔だったと思い出す。

 

僕は君の何が好きだったのだろう。

思い出せるのは胸の谷間と

7月の公園で舐めた鉄棒の味。

 

「月はどうして形を変えるのだと思う?」

「毎日、違う自分を演じていないと飽きられると思っているんじゃないのかな」

「ストレス。月はきっと肌が荒れてるね」

「そうだね。いい化粧水を持っていってあげようか」

 

7日間お試しの試供品をたずさえて、

2人で月に近寄った。

 

化粧水をゆっくり月へと流し込む。

隅々まで行き渡る化粧水。

クレーターよ、さようなら。

でこぼこは消えて、うさぎの隠れる場所もないだろう。

 

歯磨き粉みたいな彗星。

中指にぶらさがっている土星。

ジャイアンみたいな態度の木星。

種子みたいな太陽。

 

「あれは、何?」

「あれは地球だよ」

「誰が住んでいるの?」

「君以外の皆が住んでいる場所だよ」

 

君の髪を撫でると

「すべり台みたいでしょ~」

と君は笑った。

 

思い出せない顔はあるけれど

思い出せない声はないよな。

 

月からしたたり落ちた化粧水が宇宙に浮遊している。

それは涙みたいに誰にも悟られずに浮遊している。

 

「宇宙の彼方にさ、君の涙が広がっていってもさ、僕が1つ1つ見つけてあげるよ」

 

「そんなことをしている間にね、私はいなくなっちゃうんだよ」

 

 

その頃、地球では、新しい星が見つかったと大騒ぎになっていた。

望遠鏡を覗く子ども達がたくさんいて、季節外れの蚊の1匹が、我が子のために血を吸っていた。

 

「あっ、たくちゃん、蚊がいるよ!」

 

流れ星。

子どもの足。

パチンと叩く音。

命に重いも軽いもありませんと言った先生の朝礼。

 

潰れた蚊は、

星座みたいな形をしていた。

 

 

 

 

 

 

《 バックナンバー 》

記事一覧表示

 

《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter https://twitter.com/aoba_masakuni
Instagram https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.06.28

pagetop

みらいパブリッシング

本でみらいを創る? みらいパブリッシング
〒166-0003東京都杉並区高円寺南4-26-12福丸ビル6階