月曜日のショートショート 第33話『ロボットのバラード』

連載
2021/06/14

この連載について

毎月2回、月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第33話 ロボットのバラード

 

 

 

「みんなちがって、みんなせいかい!」

どこかの誰かが言っていたような格言を、まるで自分の言葉のように宣言した担任のマエノを、私は心底、嫌悪した。

 

「いいか、大学に行くやつがいても良い。専門学校に行くやつがいても良い。就職するやつがいても良いんだ! みんなちがって、みんなせいかいなんだぞ。おっ、そうだ、竹下は進路どうするんだ!?」

「ミュージシャンっす」

「おおほおおっ! いいなぁ! 先生ずっと応援しているからな。デビューしたら連絡しろよ」

 

マエノはすぐに忘れるだろうと思った。

 

合唱コンクールの時だった。

全く学校に来ない不良の鈴木が、コンクールの当日だけノコノコと登校してきた。

もちろんパート分けもしていないから、どうするのだろう、さすがに一緒に歌えないだろうと私は思っていたが、マエノは「うおおお! 鈴木! 来てくれたのか!」と涙を流して喜んで、当たり前のように鈴木を合流させた。

鈴木はニヤニヤしながら私と同じソプラノパートの輪の中に入った。

気まぐれで登校してきただけで、やる気なんて元々なかったから、合唱中に「ぽうー!」と奇声を所々で発し、鈴木は歌を台無しにした。

けれど、マエノはクラス全員揃ったことに意義があるんだ! と言って私たちを褒めたたえた。

悔しくて仕方なかった。

歌がずっと好きで、放課後も1人で練習していたのに、マエノと鈴木のせいでクラスの平凡な思い出に落とし込まれてしまったのだ。

 

マエノはすぐに忘れる。その他の生徒のことをきっと。

 

こんなこともあった。

数学で赤点しか取ったことがない星野が初めて50点を取った。

マエノは星野を褒めて、黒板の前に立たせ、気取ってインタビューをはじめた。

「星野選手、星野選手、50点取れた今の気持ちは!?」

「さいっこうです! まじで努力してきて良かったっす!」

クラスにドッと笑いが起きた。

星野は愛されるキャラクターだったから、星野の快挙にクラス全員が祝福した。

「本当に偉い!」とマエノは言った。

後から聞いたら、星野の数学の成績は、その項目でAランクとのことだった。

何故? と思った。

 

私はずっと努力をしていた。

昔から算数や数学が苦手だったから、寝る前に必ず数学の問題集を解いて寝るようにしていたのだ。

毎日だ。それで、やっと60点が取れていた。

平凡な点数かもしれないが、私にとっては凄いことで、それが私の誇りだった。

もっともっと褒めてほしかった。けれど、誰も気づいてはくれないのだ。

毎回、2点とか7点を取って、クラスの笑いものになることで何とか体裁を保っているような星野の方が皆の前で褒められて、私にそんな機会はなかった。

私の成績はBだった。

 

マエノは忘れるのだ。平凡な生徒のことを。

 

 

それで、結局、私の進路は「ロボット」にした。

 

ロボットは平凡で良い。

個性を強要されることもないし、比べられることもない。

私が小学生くらいの頃から、先生達が言いはじめた「個性」という言葉。

私は教科書に書いてある(例)のように、やりこなすのが得意なのだ。

けれど、そんな私を見て先生達は決まって言う。

 

「もっと自分らしくやって良いんだよ」

 

なぜダメなのだろう。

(例)のように出来るのは何故ダメなのだろうか。

 

進路カードにロボットと記入すると「ロボット志願書」が家に届く。

そこに記入して手続きが完了すると、深夜にするりと部屋に忍び込んだ政府のロボットが、志願者の脳みそにネジを1本1本打ち込んでいく。

そして朝目覚める頃には、ロボットに生まれ変わることができるのだ。

ロボットになったらそのままトラックに乗せられて、工場で動く緻密な機械として、永遠に働く。

 

素晴らしいと思う。

誰からも比べられず、何も考えなくて良い。

目の前の業務を遂行していくだけ。

私にとって、それが本当の幸せのような気がした。

 

ロボットになる日がやってきた。

朝、いつものように登校し、クラスに到着する。

今日の深夜にはロボットになることが出来ると思うと、ずっと落ち着かなかった。

「ああ!」と大きな声を出したくなるような瞬間が何度もあった。

でも、いつものように、座席から見える校庭を眺めながら、じっとしていた。

 

ガラガラと扉の音を立ててマエノがクラスに登場した。

いつものようにピチピチのポロシャツから乳首の形が薄っすら見えている。

 

「おはよう、諸君!」

何が諸君だ。馬鹿が。

 

「ホームルームを始める前に、皆に報告がある。実はうちのクラスの松本が、今日からロボットになる!」

 

えっ!? という波がクラスにできて、その波は一点集中で私の顔に到着した。

私のことを皆が見た。

 

「松本はな、今回の進路希望でロボットになることを選択した。これは、とても凄いことだ。みんなが出来ることじゃない。でも、松本なら出来ることだと思わないか?」

 

今、クラスの中心は紛れもなく私だ。

 

「松本は誰よりも努力家だからな。みんな知っているだろ?? 松本! 松本はすごく歌が上手いんだよな。合唱コンクールの時、松本が1人で放課後練習しているのを俺は聞いていてな。こりゃあ凄いと思ったんだよ!」

えっ。

「だからあの日、松本がいるなら鈴木をソプラノに合流させても良いかなと思ったんだ。それに、松本は努力家なんだ。中学校の時はずっと赤点だった数学も、高校3年間で一度も赤点を取っていない。これも凄いことだよな」

ちょっと待ってよ。

「それに松本は、いつもクラスの花に水をやってくれているし、松本は本棚の整理をしてくれる。松本はクラスで孤立している子にも積極的に話しかけてくれる。な? みんな知っているだろ? 松本はこのクラスの良いところを全部全部まとめたようなやつなんだよ!」

 

何回、松本って言うんだよ。

なんで、そんなに見ててくれていたんだよ。

 

「先生な! 松本のことずっと応援しているからな!」

 

マエノが私を見て笑っている。

クラスのみんなが笑顔で私を見て拍手をはじめた。

 

「マッ、マエノせ…せ…い」

言葉はもう上手に出てこなかった。

 

「マエノせん、せい、なん、で、私、のこと、口に、出して、私に!! 向かって、もっと、はやぐ!! もっと、はやぐ!! 伝えて、くれなかった、んですか」

 

涙でぐちゃのぐちゃの、私の顔を見ながら、マエノは、うんうんと頷いている。

クラスに広がる盛大な拍手の音で、私の声は誰にも聞こえない。

 

「松本さん頑張って!!」

「松本さーん!」

 

私はロボットになる。

今日の深夜。

 

 

 

 

 

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《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter https://twitter.com/aoba_masakuni
Instagram https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.06.14

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