月曜日のショートショート 第32話『せなかとんとん』

連載
2021/05/31

この連載について

毎月2回、月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第31話 せなかとんとん

 

 

 

雪が降っている。

今日、かなえちゃんが何度も遊んでいたゾウの滑り台や、たつやくんが豪快に転んだ砂場、まみちゃんの摘んだ花がポツンんと落ちているジャングルジムにもだ。

 

僕は、ひまわり組から園庭の遊具を見ていた。

教室には子ども用の小さな布団が、子どもの数だけ隙間なく並んでいて、それはテトリスなら、とっくに消えてなくなっていそうな程、正しく整列していた。

その布団で、ひまわり組の子ども達が昼寝の準備のために寝ころんでいて、僕は布団の上に座っている。

 

「せんせい、せなか、とんとんしてー」

「はいよん」

 

子どもたちが眠りにつくまで保育士は、寝転がっている子どもの背中をさすったり優しく叩いたりしながら、眠りの世界へと誘(いざ)なっていくのが仕事だ。

 

この子は肩辺りを撫でると、いつも嬉しそう。

この子はポンポンと早めのリズムで背中を叩いてあげると良い。

それぞれの子どもたちに合わせた方法で、僕たち保育士は“せなかとんとん”をするのだ。

右手はけいこちゃん、左手はりゅうたくん。

まるで、ドラマーみたいに両手を駆使しながらだ。

 

一緒にクラスを担当しているベテランの甲斐先生は、両手でたけるくんとみこちゃんの背中をトントンしている。

その両手はざらざらでゴツゴツで、長い間、仕事をしてきた手だとすぐに分かる。

 

「せんせい、あのさ、おひるね、おわったらさ…」

「うん、いい子に、寝た後、もう一回聞かせてね」

子ども達の眠る布団はとても清潔で、そのふくらみからは太陽の匂いが、ずっとこぼれている。

この綺麗に並べられた布団の集まりは、まるで海の上に浮かぶ小さな船のようだと、いつも僕は思っていた。

 

「じゃばーんじゃばーん」

と一番端っこで寝ている、まみちゃんがつぶやいている。どうやら人差し指を使って、布団の敷いていない床を海に見立てて遊んでいるようだ。

 

「せんせいー、おさかな、つれたよぉ」

突然、まみちゃんが右手で何かを掴んで、僕の方を見た。

 

「なに、釣れたん?」

こちらも囁き声で応答する。

 

「サンマ」

「さっ、サンマ?」

「うん。サンマ」

「おっ、おおきいの、つれたねぇ」

「いや。サンマは、おおきくない。ほっそいの! だから、みんなのぶんも、いっぱい、つっておくわ、ほらみてよ、せんせい」

丸太を抱え込むみたいにして、大量のサンマをこちらに見せるために立ち上がった。

 

「ほれ、ほれ、まみちゃん、ねないとー」

甲斐先生が、まみちゃんに声をかけた。

 

けれど、僕が話にのったのが嬉しかったのか、でねでね! と、まみちゃんの想いは収まらず、両手に抱えたサンマを持って、こちらにやってきた。

途端に布団は水浸しになった。

 

たまにあるのだ。

子どもたちの想像力が現実を飲み込んで、思い浮かんだことが“本当”になる瞬間が。

 

「おお、こっちには、ドラゴンがとんでるでー」

甲斐先生に背中をトントンされていた、たけるくんが言った。

「なぁ、ドラゴンの、くちにサンマくわえさせて、いい?」

 

甲斐先生が

「ほらぁ、みんなちゃんと寝ないとー」

と言いながらも、自分のエプロンのポケットをモゾモゾしはじめた。

 

「甲斐先生、どうされたんですか?」

「もう、しゃーないわー、みんなの気分転換に、この船、漕ぐわ」

 

甲斐先生はエプロンのポケットから折り紙を取り出して、それを、にゅいーんと伸ばすと、ボートのオールみたいなものを作って漕ぎはじめた。

 

「せっ、先生、そんなこと出来るんですか」

「まあね、だてに20年働いてましぇんからね」

 

その声を合図に、僕らの乗った布団の“船”は、甲斐先生によってゆっくり動きはじめた。

わーいわーいと感嘆する子や、そんなことお構いなしに寝る子、様々だ。

 

「おっしゃ、すり抜けまーす」

甲斐先生が操縦する布団の船は、ひまわり組の大きな窓をすり抜けて園庭に出た。

 

「さむーい、さむーい」

「きゃーっ! さいこー」

「ゆきだー!!! ゆきだー!!!」

雪を浴びながら子どもたちは、はしゃいでいる。

 

自分の想像したドラゴンが雪空に飛んでいるのを見たたけるくんが

「オレのドラゴンかっけぇぞ! オレのドラゴンかっけぇぞ!」

と、みんなに自慢している。

 

「これは積もらないねぇ」

頼りなく降る雪を見てそう言った甲斐先生は、布団の上に大の字になって寝ころんだ。

 

「どうしたんすか!」

「いや、わたしね、いっかい、この布団にダイブしたかったんよ」

「それ分かります! 僕もですよ」

大人2人が大の字で寝ころんで、雪空を見上げると、ドラゴンがサンマをくわえて空を飛んでいた。

 

その隙間から降り続く雪は、空から落ちている間は“雪”と呼ばれているけれど、手や体にこうして付いた時には“水”と呼ばれる。

 

「せんせい、みんなにサンマくばっていい??」

「いいよ」

この物語をはじめた、まみちゃんが、みんなの枕元にサンマを並べはじめた。

 

「ねえ」

「なんですか? 甲斐先生」

「私の想像力だったら、絶対、ドラゴンにサンマはくわえさせられないと思う」

甲斐先生がニヤニヤ笑っている。

「本当、そうですね」

 

「かいせんせー、みてー、あそこに、おしろがあるよー」

みなみちゃんが、甲斐先生に抱きつきながら言った。

 

「どれどれ~、どんなお城かなぁ」

甲斐先生は目を閉じて、そのお城を見ようとしていた。

 

「せんせいの、めのなかにあるん?」

みなみちゃんも真似をして目を閉じたから、そのまま、とうとう寝てしまった。

 

僕らは一体どこまで行けるだろう。

うとうと眠りそうになった僕を、トントンするような気配を感じる。

 

トン、トン、トン、トン。

トン、トン、トン、トン。

 

心臓は僕のことを、ずっとトントンしてくれているようだった。

 

 

 

 

 

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《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.05.31

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