月曜日のショートショート 第30話『不要不急の宇宙旅行』

連載
2021/05/03

この連載について

毎月2回、月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第30話 不要不急の宇宙旅行

 

 

 

左目でウインクは出来るけど、
右目ではウインク出来ない。

 

自由に動かせているつもりの、この身体も、自分の意志で動かせていない部分が、まだあるのではないかと思う。

例えば、足の小指。

俺はどうやっても動かすことが出来ない。

「小指を動かそう」と思っても、隣の薬指が先に動いて、なんとなく小指も一緒に動くといった感じだからだ。

これは薬指が動いているだけで、小指はバイクのサイドカーみたいに、くっ付いているだけ。

そんな小指をぼんやり眺めていると、爪も随分小さいし、そういえばこんな歪に曲がっているのかと思ったら、不思議な存在に思えた。

俺の身体に在って、俺のものではないようだ。

 

両足をグイっと伸ばして、天井を歩いた。

窓の外には木星が見える。

木星、大きいなぁ。

ああいう、色のチュッパチャプスが、俺一番好きだったなぁ。

 

コーヒーにミルクを垂らして、スプーンでかき混ぜている途中に、ああいうマーブリングが出来る。

子どもの頃、お母さんが買ってきてくれた、おやつの飴の“チュッパチャプス”。

俺は決まってあの木星みたいな色を選んだ。

弟のシュンもその味が一番好きで、2人して小さな木星を無言で舐めていた。

 

「「あのさ」」

 

2人の言葉が重なった。

 

「おお、ごめん、シュンからで良いよ」

「いやいや、リョウからで良いよ」

 

話はじめる時、何かを決める時、俺達の声はシンクロした。

お前ら双子だからって、わざとそんな風なキャラクターを演じているんだろと、クラスの馬鹿そうなやつに言われたことがあった。

 

「「いや、本当だって」」

 

その時、笑いがドッと起きて、とても恥ずかしかった。

みんな笑っているけれど、笑い方が様々な分、聞いていて不快だったのを覚えている。

 

良いことも、悪いことも、弟のそれを遠くから感じることがある。

身体は確かにもう1つあって、ロマンチックな言い方をすればシュンが痛ければ俺も痛いのだ。

 

俺が学校で嫌なことがあって、ふさぎ込んでいるのに、シュンが機嫌よく帰ってきた時があった。

何だか無性に腹が立って、全然、チューニングが合っていないじゃないかと思って、おかえりと同時にぶん殴った。

それで、シュンも怒って俺を殴ってきたが、自分の利き手じゃない左手に殴られているようで、全然痛くなかった。

俺の赤くなった頬と、シュンの頬が全く同じように赤くなっていた。

感情が一致したと思って少し安心した。

 

「リョウ、見て」

シュンが足を交互にさせながら空中で泳いでいる。

 

「宇宙だと、こんなに足、動かせるぜ!」

 

バスケットの試合で大怪我をしたシュンは、もうバスケットが出来ない足になっていた。

インターハイ予選の前だった。シュンは県内でも有名な選手だったから、友達も高校の先生も、ひどく落ち込んだ。

そんな時、俺は宇宙旅行のチケットを購入した。

アルバイトで貯めたお金を全て注ぎ込んで、シュンとの旅行を計画したのだ。

 

「北海道のおばさんがさ、車いすバスケのチームがあるから入らないかって言ってるけど、どう?」

 

シュンは、しばらく考えて、それに応えるようにボールを強く俺に向けて放った。

きっと地球だったら、すごいスピードだっただろう、そのボールは、無重力の中でゆっくり俺の元へと到着した。

 

「Noってこと?」

 

「すごい平凡なこと言って良い? 俺が足を怪我したのに、リョウは怪我してない。普通に歩けているって状態が、怖いんだ。いや…違うな。不思議なんだ。ずっといつも一緒だったから。だから、初めて俺たちは違う人間なんだってことを、今、突き付けられている気がする。証明されている。だから、俺が車いすバスケ始めたら、どんどん俺たちは違う方向へ行っちゃうんじゃないかな」

 

窓の外ではオリオン座のおっちゃんが、宇宙旅行者用の「オリオンの3つ団子」の販売カーを押している。

 

「すごい平凡なこと言って良い? でもさ、この無重力の中ではそんなの無力じゃん。バスケ出来なくなったシュンだって、ここじゃダンク決められるぜ」

 

俺は、用意していたリュックサックの中から、子どもの時2人で遊んでいたおもちゃのバスケットゴールと、小さなバスケットボールを空中に放り投げた。

 

「あっ」

 

シュンの元へ小さなボールが到着する。

すると、シュンの身体もそれに合わせて小さくなって、空中でドリブルをはじめた。

俺の身体も同じように小さくなって、あの日みたいに実況の真似をする。

 

「おーーっと! アラカワシュンせんしゅ! きりさくドリブル、だれもついていけません!」

 

俺の声は昔みたいにソプラノだ。

シュンは俺の実況を聞きながら、空中のゴールに向かって走る。

 

「おーーーっ!ここで、ごうかいな……ダンクシュート!」

 

そこには確かに、プロバスケットボール選手になる夢を叶えようとするシュンがいた。

 

「リョウ、ここに来て良かったかも」

 

俺たちは無重力空間の中でハイタッチした。

じんわり手が震えている。

俺もダンクシュートを決めたみたいだ。

 

薬指と小指が一緒に動くように、俺たちは宇宙にいた。

 

 

 

 

 

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《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.05.03

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