月曜日のショートショート|第29話『ハロー、青。』

連載
2021/04/19

この連載について

毎月、第2・第4月曜日の夜に更新される、電車ひと駅ぶんの時間で読めるショートショート。

絵本『かいじゅうガーくん』の著者でありミュージシャンでもあるマサクニさんによる不思議な世界をお届けします。

いつもの月曜日から、少しだけ別の世界へワープしてみませんか?

 

 

 

 

第29話 ハロー、青。

 

 

 

青を選んでしまう。

大人になってからはずっと。

 

子どもの頃は、とてもピンクが好きだった。

ランドセルも当時は珍しかったピンクを買ってもらった。

学校へ行くと、みんな赤のランドセルで私だけピンク。

けいこちゃんの可愛いねって言ってくれる子もいたけれど

「わたしもピンクのやつ、売ってるのお店で見たけど、お母さんに赤にしなさいって言われたから、ちゃんと赤買ったー」と、言ってくる子もいた。

 

その子は、私に対抗してくるようになった。

帰り道、その子がじゃあねーと言いながら、私のランドセルをトンと叩いた。

あれ、意外と「許されている」と思って不思議に思った。

けれど、そうじゃなかった。

家に着いてランドセルを部屋に置いた時、分かるか分からないか、はっきりしないような、まるで意図的ではありません、たまたまですと言っても逃げ切れるくらいの量の赤い絵の具が、私のランドセルの中央にしゅーっと付いていた。

ピンクの上に赤が在る。

よく分からないけれど、この絵の具は、そのままにしようと思った。

 

次の日、その子が「可愛いね」と言ってきた。

「うん」と言った。

その子の全身ピンクのドレスみたいな服が風に揺れている。

腕あたりにご飯粒が大量に付いていたのを見つけて、

私も「可愛いね」と言ってあげた。

 

 

 

青を選んでしまう。

大人になってからは、ずっと。

 

今、アパート4階から見える空は青い。

パソコンで、ここに青を塗りますと選択したようにただただ青い。

 

青は何となく無難な色な気がする。

嫌われないような色な気がする。

例えばもし、1枚だけ好きなワンピースを選んで良いというショールームがあって、その中には、たくさんの女の子がいて、私は1番好きなピンクの1番可愛いワンピースが堂々と真ん中にあるのを見つけたとしても、率先して、青の落ち着いた色のワンピースを選ぶ。

みんなが走って、ピンクに向かう中、猫背で泥棒みたいに青のワンピースを掴む。

青が悪いと言っているわけではない。

いかに「人から嫌われないようにするか」を選択するようになった私が、歳を重ねるごとに色濃くなっているのだ。

 

はあばとこうたが帰ってきた。

2人とも、全身青色をしている。

「忘れてたー、今日は青が降る日だったのよねー」

「そっか、ばあば、今日14日だったね」

 

この街では、毎月14日14時に決まって青が降る。

そのせいで街は、青に染まる。

黄色だった建物も、緑だった木々たちも、グレーのアスファルトもだ。

たまに、それを忘れて外に出て、ばあばとこうたみたいに全身青色にしてしまう人もいるし、「青が降るから黄色い傘を差して、可愛く青と黄色のデコレーションした傘を作ろうかしらん」なんて強者もいる。

 

そして青が降った次の日、街の人達はブラシを持って掃除する。

青を擦ると、染まる前の色が見えて建物の輪郭がハッキリする。

もともとの色にハローって言われた気分になる。

雨が降ればラッキーだ。

掃除の必要がないから。

全ての青が流れ、排水溝を通り、川を通り、海に出る。海は青い。

この街の海の青はきっと、この青だ。

 

「こうたー、ばあばとお風呂入っちゃってー」

「やったー!ばあばと一緒ー!」

青髪の息子がニカッと笑う。

 

「やだ、なんで歯まで青いのよ!」

「こうたくん、空に向かって笑ってたからだね~」

 

ベランダに出ると、こうたの自転車が真っ青になっていた。

もともとは、真っ赤な自転車だった。

サドルの部分を触るとべっとり手に青がついた。

ピンクのランドセルに塗られた絵の具の赤みたいに鮮明だった。

なんで、私はあの時、赤をそのままにしたのだろう。

もし、赤を取り除いていたら、屈したように思われるからだろうか。

 

「あ!ぼくの自転車真っ青じゃん」

裸でお風呂の準備をしていた息子が笑っている。

自転車のサドル下部分を息子が擦ると、マジックで書かれた名前が現れた。

“かぶらぎ こうた”

「はは!昔のまんまだ!かぶちゃん、ってあだ名も好きだったけど、今のはっしーってあだ名も好きだよー!」

 

工事現場のクレーンが、こちらを見ている。

黄色いとキリンみたいだと思っていたけれど、青いと龍みたいだ。

 

「ほら、お風呂入っておいで」

青い息子が素直に風呂場には行かず玩具箱を漁りはじめた。

 

「恵子」

「なに?」

「この街、出ても良いんだよ」

 

青い龍がウイーンウイーンと鳴いている。

 

「こうたの小学校のこともあるし、そんな簡単に引っ越しは…」

「いいんじゃない?私もいるし」

「ママきてくれるの?」

「きてくれるわよ」

ばあばが、ニカッと青い歯で笑った。

 

こうたが、タタタタと走ってきて、青のベランダにピンクレンジャーのフィギュアをポンと置いた。

ピンクレンジャーが両手を挙げて万歳している。

青のベランダにピンクはとても綺麗だ。

 

「ははは!ママが、ばあばのことママって呼んでるの面白い!」

 

「ピンクが降る街もあるのかな」

「あるでしょう。青が降るんだから」

 

青いお家にみんなで住んだらどうだろう。

ピンクが降った次の日に、私は、ピンクを擦る。

そこで、青を見つける。

 

ピンクの中の青。

ハロー、青。

 

 

 

 

 

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《 プロフィール 》

マサクニ

絵本作家。ミュージシャン。1986 年群馬県生まれ。B型。幼稚園教諭、絵本出版社の営業を経て現在に至る。SNSでは、絵、詩、短編小説を更新。自身がボーカル、作詞を担当する「アオバ」では、2017 年にマクドナルドのwebCMに出演した。

Twitter
https://twitter.com/aoba_masakuni

Instagram
https://www.instagram.com/masakuni0717

 

《 本について 》

かいじゅう ガーくん
著者 マサクニ
変人度200%!!  かいじゅう ガーくんの正体を誰も知らない。

2021.04.19

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